今は足踏み状態でも、米欧ともにこれまでの援助水準をいきなり零にするわけにも行かないから、遅かれ早かれ新たな支援が実現するのだろう。
特にEUは、理事会全会一致の不成立という事例を作りたくはないはずだから、何らかの打開策を講じることになるのではないか、と受け取る側の期待は膨らむ。
だが、援助が実現しても、供与される額や兵器の量は、米議会で共和党が「もしトラ」とその際の彼の意向をどれだけと値踏みするか、欧州の経済状況全般が緩やかであっても回復基調を続けられるか、そして中東問題が今後どう(悪い方へ)展開するのかにも左右される。
ロシア本土への攻撃はどこまで許容される?
特にイスラエル/ハマスの戦闘が、レバノンのヒズボラやイエメンのフーシのみならず、イランも直接巻き込む事態にまで広がれば、紅海・スエズ運河経由の海運停止や中東での原油生産・輸送への影響、そして核兵器の使用いかんなど、話は全世界的な大事に至りかねず、もう誰もウクライナ問題に構ってはいられなくなる。
ウクライナ政権内にも表向きのスローガンとは別に、こうした不確実性に向き合わねばならないことを理解している面々がいるはずである。
彼らは領土奪還未達成での停戦も最悪の事態として視野に入れ、その中で自国にとっての最善策を編み出そうとするだろう。
停戦となれば、その停戦ラインが事実上の新たな国境になることは避けられないから、動員できる兵力を可能な限り投入して、少しでもロシア軍を押し戻したところで線引きをしたい。
だが必要とされる兵員の追加動員に、ウクライナがどこまで対応できるのかには不明点が多い。
政権が国民を牽引し徴兵を拡大するためには、短期間で領土奪還が進んでいることを示して鼓舞せねばならないが、そのためには兵員増強が必要という「鶏・卵」にもぶつかる。
ウクライナ軍側からの大攻勢というシナリオが現段階では非現実的となれば、目立つ戦果や善戦振りは、クリミアを含めたロシア本土への無人機やミサイルによる遠距離攻撃でしか誇示できなくなる。
米欧も直接の支援に支障を来している間は、従来反対してきたウクライナによるロシア本土攻撃に多少は目を瞑らざるを得まい。
使われる兵器が100%ウクライナ国産と言い切れるのかも不問に付されるだろう。
ロシアがこうした攻撃への報復に逐次出て来るなら、警鐘の音量を最大限に上げて西側の危機感を再燃させ、ウクライナへの援助に励ませる可能性も見込めよう。