- 心の病で休職する教職員が急増している。文科省によると2021年度の公立学校教職員の精神疾患による病気休職者は2020年度と比べて694人増の5897人で過去最多だった。
- 名古屋大学大学院の内田良教授は「過労死ラインを超えて勤務している教員が多いことが精神疾患の増加につながっている」と説明する。
- 教員は合法的に「働かせ放題」で、民間企業では当然の勤怠管理もずさんな状況だという。その結果、7割の教員が「準備不足のまま」授業に臨んでいるという恐るべき現実も明らかになってきた。
湯浅大輝(フリージャーナリスト)
教員は「過労死ライン超え」で働いている
──教員の休職が相次いでいます。背景には何があるのでしょうか。
内田良・名古屋大学大学院教授(以下、敬称略):長時間労働が常態化していることが大きな原因です。文科省の「教員勤務実態調査」(令和4年度)をもとに、教員の労働時間の実態を調べました。
調査の結果、小中学校の教員の時間外労働の平均値は「過労死ライン」である月80時間を超えていることが明らかになりました。「教員勤務実態調査」公表時、過労死ライン超えは小学校の教員で14.2%、中学校で36.6%という数字が報道されましたが、これは過小評価です。教師の残業の本質である「持ち帰り業務」、つまり家に持ち帰って仕事をする業務がカウントされていないからです。
──なぜ仕事を「持ち帰る」必要がでてくるのでしょうか。
内田:仕事が増えすぎているからです。教員の主な業務である授業に関わる仕事、テスト問題作成や授業前準備をはじめ、クラス運営上重要な行事の準備もあります。
さらに「校務分掌」という教育界独特の仕事があります。これは会社員でいえば「所属部署関連業務」と訳せばよいのでしょうか。例えば、いじめ対策のグループや健康・美化関連組織など、学校運営上必要な仕事が重くのしかかってきます。さらに中学校であれば部活動の顧問も掛け持ちしている人も多く、とてもではありませんが在校中に仕事を終えることはできません。
実際に、私の調査では週40時間以上残業している教員の7割が「準備不足のまま授業に臨んでいる」と回答しています。学校で一番大切なはずの授業さえままならないほど、ブラックな労働環境に置かれているのです。
──労働時間を減らそう、というインセンティブは働かないのですか?