カナダへの「亡命」を表明した香港の民主活動家・周庭さん=2020年撮影(写真:AP/アフロ)
  • 留学先のカナダから「香港に戻らない」と事実上の「亡命」を宣言した香港の民主活動家、周庭さんが取材に応じ、「愛しているのに香港のことを思い出すと恐怖でいっぱいになる」と複雑な心境を露呈した。
  • インスタグラムに投稿した声明では、香港当局に逮捕され、出所後も監視され続けたことで心の病を抱えていたことなどを告白。定期的な帰国などを条件に留学を許されていたが、「自由に生きる」ことを選んだ。
  • 香港当局は再逮捕に執念を燃やしており、亡命先のカナダが彼女を守れるのかとの懸念もある。周庭さんが亡命を決意した真意と今後の展開を読み解く。

(福島香織:ジャーナリスト)

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 香港の民主活動家、周庭さんがおよそ2年半ぶりの沈黙を破って12月3日、27歳の誕生日にインスタグラムに1つの声明を出した。周庭さんは2014年、香港で起きた直接選挙権を求める学生運動「雨傘運動」のシンボルとしてメディアに取り上げられ、2019年からの「反送中デモ*1」でも香港の自由を訴えたことで懲役刑を受けた。2021年6月、禁固10カ月の刑期を4カ月短縮して出所してからは、ずっと公式の場に姿を現さず、SNSなどにも投稿せず、その動静が不明だった。

*1:「反送中デモ」とは
香港で拘束された容疑者を中国に引き渡すことをできるようにする逃亡犯条例の改正案を発端とした民主化運動
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 だがこの声明で、彼女が9月からカナダ・トロントの大学院に留学中であることが明らかになった。そして、香港に戻らない決意も明らかにされた。1学期が終わって12月末までに一度香港に戻るという約束で香港当局から留学を許可されていたのだが、それを反故にした格好だ。

「おそらく一生香港に戻らないことを決めました」

 彼女の事実上の「亡命宣言」ともいえる声明に、世界が注目している。

2014年の「雨傘運動」(写真:ロイター/アフロ)

 周庭さんの声明は、12月3日午後11時ごろにインスタグラムに上がった。かつて周庭さんを取材したジャーナリストたちの間では、すぐさまその情報が広がり、多くのメディアがSNSのメッセージなどを通じて一斉に取材を申し込んだ。

 私も8日、ビデオ通話で少しお話を伺えた。最近の趣味だというフィルムカメラ写真について語るときは、昔のような華やかな笑顔をみせていた。だが、少し憔悴(しょうすい)した様子で、「香港は大好き。私の故郷、愛する街。だけど今は恐怖しか感じなくなってしまった。愛しているのに香港のことを思い出すと恐怖でいっぱいになる。それが悲しい、つらい」と、複雑な心情も吐露していた。

「ただ自由に生きたいだけ」――。それが罪になる街に、香港はなってしまったのだった。

 これまでは私を含めて多くのメディアが、彼女への接触を控えてきた。香港版国家安全法では「外国勢力との結託」が罪に問われる条文がある。彼女も、そこが問われて懲役刑を受けたのだった。「外国勢力の結託」には、外国メディアとの接触も含まれる可能性がある。

出所した周庭さん=2021年撮影(写真:Penta Press/アフロ)

 だが、彼女がすでにトロントにいて、もう香港に帰らないと決意しているのなら、むしろ取材は彼女の安全を守ることになるかもしれない。静かな留学生活は阻害されるが、中国・香港の国家安全当局から身の安全を守るならば、メディアの視線に追いかけられている方がましだろう。

福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。