テロが再生産される懸念

 更に、イスラエルによって不条理に人生や精神を破壊された子どもたちが、このことによる行き場のない悲しみを今後憎悪に転じ、長きにわたりその憤怒を抱かないという保証など、微塵もない。英高級紙テレグラフは11月1日、イスラエルによる今回のガザへの攻撃が今後「ハマス2.0」(次世代のハマス)を生み出すとの記事を掲載した。ハマスが今後更に過激化することや、今回の攻撃で影響を受けた次世代の若者たちによるテロなどの武装闘争が、欧州に飛び火する可能性について報じている*10

*10Why the war in Gaza could spawn Hamas 2.0 and spread terror into Europe(The Telegraph)

 筆者の暮らす欧州は、これまでも度々大国の思惑に振り回された挙句、過激な行動に転じた者たちによる攻撃にさらされてきた。不条理な軍事攻撃などによって最愛の家族や友人を奪われ、それらの大国が何らの罪に問われることもなく平和で安定した社会生活を享受することへの憎悪から過激派に転じる者もいる。そうした背景により、欧州の一般市民に対するテロ攻撃が相次いだこともある。

 米英などによる、2003年のイラクへの軍事侵攻が良い例だろう。結局、大量破壊兵器など存在もしなかった。

11月11日、英ロンドンのデモでパレスチナへの連帯を示す人々。「子どもへの爆撃は自己防衛ではない」などとイスラエルを非難していた(写真:楠 佳那子)

 今回のイスラエル・ハマス紛争において、英国はアラブ系住民らによるパレスチナへの連携を示す大規模な抗議活動を禁じなかった。これとは対照的にフランスでは、社会秩序を優先するとしてそれを禁じ、アラブ系住民の怒りや憤りを放出する機会を与えなかった。そのため、フランスでは今後テロの危険性が全くないとは言い切れない。そうして、憎悪の連鎖は無限に続く。

 テレグラフが指摘する通り、こうした子どもや若者の悲痛な思いを憎悪に転ずることは、未来のテロリストを養成する格好の機会ともなり得る。ガザへの攻撃 によって、テロ行為を正当化する理由をイスラエルそのものが量産しているとも言える。

 ハマスを掃討するためだとして、イスラエルは本来、攻撃してはならない病院や難民キャンプまで標的にしている。こうした行為が国際社会から「民族浄化」に値する行為だと非難されても仕方のないことだろう。新生児や乳幼児、女性など、あまりに多数の罪のない市民を巻き込み、国連や国際社会からの停戦要請を無視し、子どもたちの精神を崩壊させ続けているイスラエルの軍事作戦は、控えめに言って深慮に欠けている。