また、検察側が主張する青葉被告の「自己愛が強くて他責的なパーソナリティー」についても、他の大量殺戮事件と重なる部分が大きい。

 例えば、2016年7月に神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者ら45人が刺され、うち19人が死亡した事件で、殺人罪などに問われた植松聖死刑囚は、捜査段階の精神鑑定で「自己愛性パーソナリティー障害」とされ、刑事責任を問えるとして起訴され、一審の死刑判決がそのまま確定している。

 古いところでは、オウム真理教の教祖・麻原彰晃(本名・松本智津夫)元死刑囚も、かつての弟子で地下鉄にサリンを撒いた慶応大学病院勤務もあった元医師から、「自己愛的人格障害」と指摘されている。麻原元死刑囚の唱えていたことこそ「妄想」で片付けてしまえば、それまでのことだ。

大量殺人事件を引き起こす人物に見られる5つの共通点

 私はこれまでに、オウム真理教事件をはじめ、様々な通り魔事件や無差別大量殺害事件を見てきた。そこで繰り返し述べていることだが、大量殺害事件を引き起こす人物には、以下のような共通点を見つけることができる。

(1)恵まれない境遇に対する不満、こんなはずではなかった、という欲求不満が蓄積する。
(2)自分は悪くない、正しい、周りが間違っている、という“他責的傾向”が強い。
(3)孤立。
(4)自己顕示欲が強い。
(5)犯行を肯定する独善的な論理や大義が加わる。

 こうした傾向は、植松死刑囚にも当てはまるし、青葉被告にも言えるはずだ。

 京アニ放火事件とよく似た事件は過去にもあった。2009年7月、大阪市此花区のパチンコ店に男がガソリンをまいて放火。客や店員5人が死亡、10人が重軽傷を負った。

 検察は起訴する前に、精神鑑定を実施。結果は「妄想型統合失調症」に罹患しているとされたにもかかわらず、起訴している。

 事件当時41歳だった被告は、「30歳くらいのころから、女性らの声で嫌がらせを受けるようになった」と主張し、この女性を「みひ」と呼び、もうひとつ「マーク」という集団と一緒に、「左手を使うな、とか、『あー』や『うー』という言葉を使うな」などと語りかけ、言うことを聞かないと「身体が重くなったり、急に腹痛がしたりする」と語った。大きな事件を起こせば、間接的に「みひ」や「マーク」への復讐になる。そのためにガソリンを購入し、マッチで火をつけたのだ、と主張。明らかに妄想が入っている。

 だが、犯行に及んでは支障なくガソリンを購入するなど、「決めたことを確実に実行するため、極めて合理的に行動している。犯行後の行動にも異常な点は認められない」「被告人が完全責任能力を有していたことに疑いはない」と結論づけ、大阪地裁は死刑判決を言い渡し、最高裁まで争われたが確定している。

 青葉被告の裁判は、この中間論告・弁論で刑事責任能力をめぐる実質的な審理は終了。裁判員と裁判官は、11月下旬までに非公開で「中間評議」を行って、責任能力について結論を出す。結果は公表しないまま、27日からは情状や量刑の審理に入る。

 ただ、こうして過去の事例を見比べてくると、自ずと裁判の行き着く先は見えてくるはずだ。