「妄想は被告の生活にほぼ影響していない」

 事件当時の青葉被告について、検察側も弁護側も、「京アニから小説のアイデアを盗用された」「闇の人物から監視されている」などの妄想があった点では一致している。

 その上で検察側は、犯行は被告のパーソナリティーによるもので完全責任能力を有していたとする。

【検察側の主張】
 被告は「努力しているのにうまくいかないのは他人のせい」と投げやり感や怒りを強め、2012年にコンビニ強盗事件で実刑判決を受けた。出所後、小説執筆に本腰を入れ、20回以上書き直す。被告の人生全てを詰め込んだいわば「自分の分身」というべき作品だったが、京アニ大賞に落選。一筋の希望もかなわず、やけくそになった。

「何もかもうまくいかないのは京アニが邪魔したせい。やられたらやり返さないといけない」と考えた。こうした価値基準は被告のパーソナリティーそのものである。

「小説のアイデアをパクられた」との妄想も、自己愛が強くて他責的なパーソナリティーの被告が、京アニ大賞落選という事実から生まれた怒りの感情で、京アニのアニメのシーンを解釈したことで生じている。

 最高裁判例は、妄想が「自分の生命・身体を狙われていて攻撃しなければ自分がやられる」という差し迫った内容だったり、現実とかけ離れた虚構の出来事を内容とするものだったりを重視しているが、被告の妄想の内容に着目すると、犯行を命令したり、犯行に及ばなければ自己の生命・身体に危害が及ぶような差し迫った妄想は一切なかった。現実では起こりえない内容を含むものでもなければ、妄想が被告の生活にもほぼ影響していない。せいぜい現実の出来事から生じた怒りや焦燥感を強化した程度にとどまる――。