さらに検察側は、犯行直前にはやるかやめるか、逡巡があったことも重視している。

源氏物語の舞台となった京都府宇治市は、10月31日、宇治市の名所を背景に紫式部らを描いた京都アニメーション制作のイラストを発表した。右は宇治市の松村淳子市長源氏物語の舞台となった京都府宇治市は、10月31日、宇治市の名所を背景に紫式部らを描いた京都アニメーション制作のイラストを発表した。右は宇治市の松村淳子市長(写真:共同通信社)

 これに対して弁護側は、被告は重度の妄想性障害だった、と主張する。

「被告は10年以上、妄想の世界で生きてきた」

【弁護側の主張】
 検察側が精神鑑定を依頼した医師が、精神疾患ではない「妄想性パーソナリティー障害」としたことは信用できない。

 被告は少なくとも10年以上、妄想の世界で生きてきた。被告にとって全てが現実で、どうしたらよいか分からなかった。妄想の影響がない現実的な出来事で、直接影響があったのは、京アニ大賞に落選したこと。ほぼこれだけだ。

 検察側は妄想の内容が現実世界とかけ離れていないことも重視しているが、これは重要ではない。妄想性障害の妄想は奇異ではなく、現実に起こりうるものが内容となることがよくある。むしろ乖離がないほうが、現実と妄想を区別するのは難しい――。

 こうしてみると、ここでは「妄想」がひとつのキーワードとなっている。

 私が大学に通っていた時、精神医学の教科書で「妄想」という言葉を見た。その分野の専門用語として扱われていたが、いまでは普段からちょっとしたイマジネーションを膨らましたり、空想したりすることも簡単に「妄想」と呼んでみて、だいぶその定義も覚束ない。