「秋の味覚の王様」と称されながらも、庶民の口に入ることがなかなかないマツタケ。それだけにその独自の流通の仕方についても一般にはほとんど知られていない。店頭に並んでいるマツタケはどのようにして売り場にたどり着くのか。今回はそれについて説明をしてみよう。
【参考】
意外に知られていないマツタケ、その研究に人生を捧げた研究者の物語(1)〈昔はゴロゴロ採れたというマツタケ、なぜ希少になったのか〉
意外に知られていないマツタケ、その研究に人生を捧げた研究者の物語(2)〈岩手をマツタケの本場に変貌させた微生物生態学者の奮闘〉
ブランド化に遅れていた岩手産マツタケ
農林省の2022年の統計によるとマツタケの産出量は全国で35.5トン。これを都道府県別でみると、長野県が1位で22.6トン、2位が岩手県の6.5トン、それ以下は和歌山県が2.6トン、石川県が0.8トン、岡山県0.6トン、宮城県と京都府がそれぞれ0.3トンという具合になっている。
つまり長野と岩手の2件で全国の8割以上の出荷をしていることになるのだが、実はこの統計には「ウラがある」という指摘もある。というのも、この統計は市場を通して流通したものだけが対象であり、それを通さないマツタケに関しては統計に反映されないからだ。
長野県は古くからマツタケについて組合が管理しており、出荷も厳しくチェックをしている。一方、岩手県の場合は少々事情が異なり、市場を通さない品が流通している場合が多いとされる。なので少なくとも統計の10倍は採れているのではないか、というマツタケ業者もいるほどだ。
このような地域差がなぜ生じているのか、まずはそこから説明をしていきたい。
マツタケの産地としては信州のほうが歴史は長い。収穫されたマツタケは、そう遠くない京都や東京の市場に送られてきた。また信州のマツタケ産地である上田市辺りの山々は個人や組合が所有している山が多く、しっかり管理されている場合が多い。たとえばマツタケ泥棒が侵入しないよう山をすっぽりと囲うように金網や鉄条網が張り巡らされたり、監視カメラを設置されたりしている。これは過去にそれだけ被害が多かったという証拠でもある。警察とも連携し、マツタケのシーズンには泥棒根絶に向けてピリピリしたムードも漂っている。組合員が交代で24時間監視をしているマツタケ山もあるほどで、シーズン中にマツタケ山に通じる道路を、他地域ナンバーの車で通れば、ほぼチェックされていると思って間違いない。
一方の岩手の場合はどうだろう。こちらは釜石市以北で久慈市辺りまでの三陸地方が産地の中心だが、信州と違って大消費地である京都や東京との距離があるので、流通網の発達が遅れていた。そのため、かつては岩手県産マツタケの商品価値は、さほど高くなかった。
それを改めるように指導してきたのが以前に紹介した岩泉まつたけ研究所の初代所長となって京都から移住してきた京都大学でマツタケを研究してきた吉村文彦博士であった。マツタケの生態を研究し、人工栽培への道を探るとともに岩手のマツタケのブランド化を目指して産地を巡って講演活動を行ってきたのである。