消費税申告で年明けにさらなる騒動も

 さらに、経費精算される領収書の見極めも必要だ。

 これまでの領収書は支払い額さえ書いてあれば問題がなかったが、インボイス制度開始後は、インボイス番号、適用税率、消費税額などの記載が必要となる。チェーン店や大手企業であればインボイス対応済の領収書が発行されるだろう。

 だが、個人経営店の場合、「コーヒー代 500円 消費税40円 合計540円」といった具合に、消費税額だけが記載されていて、インボイス番号や適用税率の記載がない場合もある。この場合は原則として、仕入税額控除ができない。会社に経費を請求できると思って領収書をもらったら、インボイス番号が記載されておらず、自腹を切るはめになったというサラリーマンも出てきそうだ。

 フリーランス、中小企業、企業の経理、領収書を提出するサラリーマン…。あらゆる人を巻き込んで騒動となっているインボイスだが、一連の混乱を、冷静に見ている事業者もあるようだ。たまらん坂税理士法人の坂本新代表税理士は「これまで免税事業者だったクライアントのほとんどが、『受け取った消費税は本来納めるものだから』と、インボイス登録した」と話す。その意味では、「課税の適正性を確保するため必要な制度」(岸田文雄首相)という政府の狙いはある程度理解されているのかもしれない。

 だが、導入初期を乗り切っても、年が明ければ新たな騒動が予想される。最終的に消費税を申告する段階で「こんははずではなかった」という混乱が事業者に広がる可能性もある。

 注意しなければいけないのは、事業所得や雑所得自体は赤字でも、消費税は納めなければいけないことだ。パン屋を経営していて、店舗や材料費で赤字だったとしても、消費者が買ってくれたパンにかかる消費税のうち一定程度は納めなければならない。消費税はあくまでも客から預かったお金に過ぎないからだ。

 消費税を申告する段階で、思わぬ金額を納税することになり、事業計画が狂うといった事態が想定される。

 トランス税理士法人の中山慎吾代表税理士は「これまで自分で確定申告をしてきた給与所得者や個人事業主でも、来年3月の消費税申告に戸惑うのでは。実際に当法人には消費税申告の相談が多く寄せられている」と話す。

 消費税分の現金は、しっかりと確保しておきたい。