講堂内を歩き回り、生徒たちに発言を求める直井さん(写真:筆者撮影)

教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が、男子校で広がり始めた性教育とジェンダー教育の現場に迫る連載「ルポ・男子校の性教育」。今回は北千住駅の目の前にある足立学園中学校・高等学校を訪ねた。足立学園では例年、中2と中3のそれぞれを対象に、「いのちの授業」と銘打った特別授業が行われている。中2と中3の2年間にわたって、同じ講師が授業を行うしくみだ。講師は助産師で思春期保健相談士の直井亜紀さん。母子健康奨励賞や内閣府特命担当大臣表彰などを受賞している。

おおたとしまさ:教育ジャーナリスト)

 中2の授業の副題は「心とからだの未来のために」。

 聞いた子どもが幸せな気持ちになる言葉を大切にしていると直井さん自身が言うとおり、科学的な正論を上から教えるというスタンスではなく、生徒たちに実感させ、感情に訴えかけるような語りかけが特徴だ。

 たとえば胎児の成長について説明しているときは、ゴマくらいとか、米粒くらいとか、鶏卵くらいとか、イメージしやすいたとえを使い、さらに「そのとき、お母さんがどんな顔をしていたか、どんなことを言っていたか、想像してみて」と語りかける。

 生徒たちも見事だった。直井さんが時折投げかける保健体育的な妊娠のメカニズムに関する質問に、即答で正解していくのだ。基本的な知識はしっかりと頭に入っているようだ。「大人でも知らないひとが多いのに、いのちに詳しい男子はカッコイイ!」と直井さんは生徒たちを絶賛する。

 照明を落として出産シーンの映像を見たあと、暗い照明のまま、直井さんはプロのナレーターのような口調でゆっくり生徒たちに語りかけ、14年前、自分がどんな大人たちに見守られて生まれてきて、育てられてきたのかを想像させる。

 中3の授業の冒頭では、直井さんが「1年前に私の授業を受けたのを覚えているひといますか?」と問いかける。全員が手を挙げた。さて、1年ぶりの話の続き。つまり、基本的にはさきほどの中2の授業の続きにあたる。

 中3の授業の副題は「紳士になるために知ってほしいこと」。足立学園では紳士教育の一環と位置づけている。

 まずはクイズ形式で月経についての基礎知識をおさらいする。「女の子の生理に詳しくて、モテることはあっても困ることはないからね。相手を理解すること、とても大事です」と直井さん。

クイズ形式で基礎知識をおさらいする(写真:筆者撮影)

 そのうえで、男子高校生が突然女性の月経を経験するという奇想天外な、ナレーションつきの漫画を見る。月経に関連して女性がどんな気分でいて、どんなことに困るのかを、自分の身に置き換えて学ぶということだ。

 次に話題は恋愛へ。直井さんはマイクをもって生徒たちの間を歩き回る。