中東情勢の深刻化で、金融市場では「有事の金」が注目されている。先週(10月10日の週)は円建て小売価格が連日、最高値を更新した。ただ、ここまで金価格が上がってきた背景には、有事だけではない別の事情があるという。節目の1g=1万円を超えた金は「売り」なのか、「買い」なのか。そして、2024年の金相場はどこに向かうのか。金投資の現状と先行きを探った。
(森田 聡子:フリーライター・編集者)
20年余りで評価額が10倍に
イスラエルとハマスの紛争勃発を受け、「有事の金」が本領を発揮した。先週、円建て小売価格は連日の最高値更新ラッシュとなり、1g=1万円を超える歴史的な高値圏で推移している。
「今しかない!」。都内在住の50代女性は、亡くなった母親から譲り受けたアクセサリーを握りしめて都内の貴金属店に駆け込んだ。買い取り価格は純金だと1g=1万円を超えており、女性が持ち込んだネックレスや指輪の合計評価額は軽く50万円を上回った。
古いデザインでほとんど身に着ける機会がないことから、いつかは現金化しようと考えていた。しかし、今年に入って円建て小売価格が何度か1g=1万円を超えたタイミングでは売り損ねていた。
「まさか、こんなに高く買い取ってもらえるとは考えていなかった。物価高で家計が苦しい時なので本当に助かる。天国の母には感謝しかない」
なお、アクセサリー1点ごとの譲渡益が30万円に満たないため、この臨時収入は「生活資産の譲渡」と見なされ、課税されないという。女性は笑顔で「半分は貯蓄に回し、半分は年末年始の家族旅行の軍資金にしたい」と話してくれた。
金の円建て小売価格は2000年には1g=1000円ほどだった。当時インゴットや金貨を購入していたとすれば、20年余りで評価額が10倍に跳ね上がったことになる。