「ケツを掘られた少年を探せ」

──ビデオを発売した時点での世の中の反応はどうだったのですか?

本橋:まったく反応がありませんでした。一部のサブカル誌に少し取り上げられただけで、メディアもみんなスルーでした。

──本は35万部売れたのに、ビデオのほうは売れなかった。これはなぜだと思われますか?

本橋:媒体ごとに客層が変わります。パワースポーツというビデオレーベルは、アイドルやセクシー系の女優のセルビデオを出す会社。きれいな女の子が水着を着てポーズを取るようなコンテンツが主流なんです。プロデュースしていたのは巨乳系タレントの輩出で有名なイエローキャブの野田義治さん。そういうところで、公ちゃんが男性の性被害を語るビデオを出しても売れませんでした。

 ビデオの在庫が大量に出ちゃって、「なんでこんなの撮ったのよ」と営業部長から嘆かれました。今、このビデオはとんでもない金額で売り買いされていますが、当時は大量廃棄処分でした。

──ジャニーズ事務所の反応はどうでしたか?

本橋:まったくの無視でしたね。サブカル媒体なんて相手にしないという態度です。ジャニーズは大手をケンカ相手に選ぶのです。データハウスから出した本のほうもまるでスルーでした。

──ビデオ版『光GENJIへ』では、北公次さんばかりではなく、元ジャニーズJr.だった少年たちも多数出演して性被害の実態を語っています。この中には、最近の「ジャニーズ性加害問題当事者の会」代表の平本淳也さんも含まれています。

本橋:当時はまだ、多くのジュニアたちは、性被害を受けてもそれを自分の内側に隠していた。ところが、北公次という事務所の大先輩が恥を忍んですべて語った。ジュニアたちは驚きました。「自分も恥ずかしがっている場合じゃない」と思い、たくさんのジュニアが告発したいと名乗り出てくれた。

 個人が直接本の版元に連絡をしてくれたり、ジュニア同士で声をかけ合ってインタビューの機会をセットしてくれたりしました。

 この中に平本淳也もいました。彼は当時、ジャニーズ事務所を辞めた直後だった。ほとんどデビューが決まっていたのですが、性加害などもあり、彼はジャニーズを辞める道を選びました。

 いろいろな元ジュニアにこの時に会いましたが、平本に会ったときには「ジャニーズが来た」という印象がありました。顔は小さいし、丸顔でかわいらしいし、華がありました。ジャニーズのアイドルの卵たち特有の向こうっ気の強さもあった。被害者たちの証言の中でも、平本は特に理路整然と被害の詳細を語ってくれました。

 この時は総勢10人くらいの被害に遭った少年たちが集まってくれたのですが、村西とおるは「『握った』『しゃぶった』ではダメで『ケツを掘られた少年を探せ』」と言いました。

 あの人らしい偽悪的な言い方だけれど、要するに「犯罪性のある肛門性交された未成年の証言を取ってこい」という意味です。当時まだ男性への性犯罪はまともに扱われない時代でしたが、それでも、この次元であればちゃんと傷害罪や強制猥褻として扱われると村西とおるは考えたのです。

 我々はちゃんと肛門性交を強いられた未成年の少年を見つけて証言を取りました。顔にボカシを入れて話してもらいました。みんなやられていることは同じでした。