モスクワを訪問した習近平氏の「本当の目的」
今年5月、中国の税関当局が突然「6月からロシアのウラジオストク港を越境のための通過港として使用可能にする」と発表したことで、世界のメディアは敏感に反応、「中国が165年ぶりに同港奪還か」とセンセーショナルに書き立てた。
もちろんロシアのプーチン大統領がこんな見出しを目にすれば面白くないだろうが、恐らく機嫌を損なうような話題を、側近がプーチン氏に耳打ちすることはないだろう。
中国内陸部の東北三省地域(旧満州)の経済発展のため、海の玄関口として一番近い同港を、自国港のように自由に使えるという取り決めだ。同港はロシア東部、極東地域の日本海に面した貿易港で、同国海軍太平洋艦隊が司令部を置く一大軍港でもある。
東北三省地域での商工業・交通の中心都市、牡丹江(ボタンコウ)は中国の対ロ貿易の窓口で、ウラジオストクは南東約240kmの距離にある。だが越境の際は煩雑な通関手続きが必須で、「手間・ヒマ・コスト」がかかるため、活発に使用されてきたとは言い難い。
これを改善するため、今年3月中国の習近平国家主席が直接モスクワに乗り込みプーチン氏に直談判。プーチン氏も快諾し、中国と同港との間を通過する物流に限って、通関手続きをほぼ撤廃。中国は自国の港並みに自由に使えるようになった。
だが実際は、孤立無援の“盟友”の足元を見つつ、「欧米との関係悪化は避けたいので目立った軍事支援はできないが、可能な限り助ける」と、習氏は自分に有利なディールをプーチン氏に持ちかけ、会談は長時間に及んだものと見られる。
もちろんウクライナ戦争関連が中心で、中国による武器・弾薬支援をプーチン氏が迫ったことは想像に難くはない。
一方、同港の自由使用についても話し合われたようで、「当初難色を示していたプーチン氏も、中国の離反だけは避けたいと、同港の自由使用権を渋々認めたのでは」との見方が有力だ。
習氏は訪ロ直前の3月初め、中国の国会に当たる全人代(全国人民代表大会)で3期目となる国家主席の続投を果たし、初の外遊先にモスクワを選んでプーチン氏を大いに喜ばせるという演出までした。
対照的にプーチン氏はウクライナ侵略戦争が想定外の長期戦・消耗戦に突入、国内経済も疲弊し始めるなど冴えない。両者が交渉に臨めば、どちらが有利かは自明の理だろう。