四谷大塚では、元男性講師が教室内で生徒を盗撮していた(写真:西村尚己/アフロ)

 日本版DBSという制度が政府で議論されている。この新しい仕組みは、英国の「DBS(Disclosure and Barring Service)」を参考にしており、性犯罪歴のある者のデータベースを事業者が確認して、前科のある者が子どもと接する仕事に就く機会を制限するという制度だ。早ければ秋の臨時国会に法案が提出される。

 保育所や学校では運用が義務化され、学習塾や習い事など民間の事業者では任意の形で活用されていく方向で検討されている。日本版DBSによって子どもの性犯罪は抑止できるのか。性犯罪加害者の更生に携わる、性障害専門医療センター(SOMEC)代表理事で精神科医の福井裕輝氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──「日本版DBS」にどういった印象をお持ちになりますか?

福井裕輝氏(以下、福井):私は性犯罪を起こす加害者の治療や更生に携わってきました。そのため、何か性犯罪者に対する施策が議論される場合には、加害者の側に立った主張になりがちですが、DBSは圧倒的な弱者である子どもを守るための仕組みです。以前から世界中で取り入れられてきたシステムで、このくらいの施策はあって当然だと考えています。

 ただ、日本版DBSを始めたから、子どもに対する性犯罪が大きく減少するかというと、むしろあまり効果は見込めないのではないかと予想しています。なぜならば、ここには「治療」「更生」「社会復帰」といった視点が入っていないからです。ただ性犯罪加害者を排除しようという仕組みです。

 自分の患者にも、問題を起こして学校の教員をやめた後、学習塾の講師になり、そこで再びわいせつ行為をして解雇され、次に働いた子供服売り場で盗撮して逮捕されたという人がいます。つまり、あるところで働けなくなっても、行くところは他にもある。

 米国のミーガン法を見ても分かりますが、性犯罪者の名前から住所までインターネットに掲載するということをやっても、こういった犯罪の抑止に成功しているとは言えません。

──日本版DBSは保育所や学校などは義務化、民間の学習塾などは任意という形で運用する方向で議論されているようです。

福井:「いたちごっこ」という印象が否めません。問題を起こして保育所や学校を解雇されても、その人はきっと民間で働く。その民間の仕事にはいろんなものがあり、子どもに接する仕事はたくさんある。全域をカバーしていなければDBSとしての役割は果たせません。

 また、加害者が子どもに関わらない仕事に移ろうとしても、他のことをするスキルがあるわけではありません。海外では、子どもと関わらない仕事につけるように職業訓練の機会や仕事の斡旋なども提供している。こういったことを一緒にしなければ、再犯を防ぐための制度にはならないと思います。