五輪アナリストの春日良一氏はウクライナでの五輪開催を提言する(写真:ロイター/アフロ)

 大会スポンサー企業から収賄を受け取った容疑で、東京地検特捜部に逮捕された東京オリンピック・パラリンピックで大会組織委員会理事を務めた高橋治之氏は、先月27日、初めて証人として東京地裁に出廷し「一切の証言を拒否する」と語った。日本人のオリンピック熱は冷や水を浴びせられた。

 信頼を失った日本だからこそ、自国へのオリンピック招致に躍起になるのではなく、オリンピックの持つ平和の精神に立ち返り、今だからできる提案があるのではないか。五輪アナリストの春日良一氏に聞いた。(聞き手:玉木正之、スポーツ文化ジャーナリスト)

玉木正之氏(以下、玉木):春日さんは「2030年の冬季オリンピックをウクライナで開催したい」と国際オリンピック委員会(IOC)に提案されています。これは、「平和運動」というオリンピック本来の主旨に合致しており、私はとても感激しました。

 2030年の冬季オリンピックについては、最初は札幌が開催地として有力視されていましたが、東京五輪の汚職があり、日本の中でもその声は高まっていません(※札幌は2030年の招致を断念して、2034年以降の招致を目指す考えを発表した)。そんな中で、ウクライナで冬季五輪というのはたいへん興味深いアイデアだと思います。

玉木正之 スポーツ文化評論家 1952年京都市生まれ。東京大学教養学部中退後、フリー・ライター、放送作家、小説家として活躍。日本で最初にスポーツライターを名乗る。過去に静岡文化芸術大学、石巻専修大学等の客員教授や、筑波大学大学院、立教大学大学院等の非常勤教師を務める。現在は日本福祉大学客員教授。TVやラジオでも活躍。ネットTV『ニューズ・オプエド』のスポーツ番組(毎週月曜・午後6時-7時)のアンカーを担当

春日良一氏(以下、春日):「ウクライナで冬季五輪を開催したい」という思いについて、私は2つの観点を持っています。1つは、オリンピック本来の持つ意義です。

 オリンピックには「スポーツで世界を平和にする」という理念がある。とりわけ、古代オリンピックが持っていた「休戦思想」が重要です。たとえ国家間に戦争状態があっても、4年に1度は武器を置いて、オリンピア(古代ギリシャの都市)に集まり、素手で競い合い、スポーツを通じて互いを理解し合う。こういった理念が、戦争を止めたり、終えたりしてきました。

 ロシアのウクライナ侵攻は「オリンピック休戦」を破った暴挙。でも、だからこそ、本来のオリンピズムの視点からきちんと反論しなければならない。侵攻された戦争地帯のウクライナでスポーツすることで戦争を止める。このオリンピックの根源的な思想を実現することが、一番いいのではないかと考えています。

 もう一つの観点ですが、札幌は2030年に冬季オリンピックを招致したいと考えており、有力な候補の1つでした。実際、2021年の東京オリンピックが成功し、その勢いを買って札幌でやりましょうという雰囲気になっていましたが、東京オリンピックの汚職事件が発覚したことで、この勢いはトーンダウンしてしまいました。オリンピックに対する日本人のネガティブな感情も強くなっています。

 この状況の中で、日本オリンピック委員会(JOC)が何をしているのかというと、ひたすら「国民感情が沈静化するのを待つ」という印象です。

 山下泰裕会長は「オリンピック運動を理解していただかなければならない」とおっしゃっていますが、理解してもらうためにただ待っている状況です。

 同時に国際的な視点においては、「オリンピックには戦争を止める力があるのか」「平和を作る力があるのか」ということが問われている。

 もし、日本がこういったオリンピックの価値や存在意義を真剣に考えるならば、2030年はウクライナにオリンピックの開催地を譲って、オリンピックとはどういうものなのかを日本人がちゃんと理解する。そのことが禊(みそぎ)になると思うのです。

 そのくらいの動きがなければ「もう二度と日本にはオリンピックは来ない」という危機感が私にはあります。だから、今回ウクライナオリンピックを提案しています。

春日良一 スポーツコンサルタント・五輪アナリスト 日本体育協会、日本オリンピック委員会に17年間勤務。オリンピック運動に共鳴し、オリンピックの渉外担当として活躍。長野五輪招致には渉外参事として奮闘し、五輪を招致した男の異名を持つ。オリンピックに造詣が深く、オリンピズムを熱く語る