以下では、こうしたAIの問題を考える上で示唆的な「認知哲学」のモデル的寓話を、少し変形して2つご紹介しましょう。

 第1は米国のAI哲学者ジョン・サール(1932-)が1980年に発表した「中国語の部屋」という「思考実験」、第2はオーストラリアのAI哲学者フランク・ジャクソンが1982年に発表した「メアリーの部屋」の「思考実験」。

 いずれも「第2次AIブーム」初期に構想され全世界に知られる古典的なもので、荒唐無稽な議論もありますが、原理的な問題を突いています。

 まず「中国語の部屋」を覗いてみましょう。

「中国語の部屋」の住人は賢いか?

筆者による「中国語の部屋」などのプロンプトによるFirefly出力例

 ジョン・サールの「中国語の部屋」は、可哀想な米国人、あるいは英国人など中国語を一切理解しない人が主人公です。

 彼を狭い部屋に閉じ込めて作業させるという酷い思考実験です。もちろん、現実にそのような虐待を実行しているわけではありません。あくまで架空のモデルとしてお話を考えます。

 狭い部屋に幽閉された犠牲者は、部屋の扉(?)に開けられた投函口から「問題」を提示され、そこには彼が一切理解しない「中国語」で指示が記されています。

 彼自身はその中身を全く理解できません。

 しかし、その読めない「記号列」に対して、どのように答えたらよいかという、一通り完璧な「マニュアル」が部屋の中に備えられています。

 それに従って「返事」をするといったストーリーが、この思考実験の核をなします。