当のアドビ社がこれを商品化するのは誠に理にかなった話だと言えるでしょう。

「お絵描きソフトに自動描画の毛が生えた程度」と考え、丸投げしないことが重要になります。

 なぜといって、何か問題が起きた時、責任を問われるのは常に人間で、システムは何も引き受けはしないのですから。

 ただ、この問題に対する、専門家としての伊東の判断はもう少し込み入っています。

 例えば「重力波」の検出、あるいは「ブラックホールの観測」を考えてみましょう。

 不幸な私たちは、生まれてこのかた一度も「ブラックホール」や「重力波」を見ることのできない、地球という小部屋に幽閉されていました。

 つまり「重力波」「ブラックホール」などに関して考えれば、私たち自身が「メアリー」なのです。

 こういう観点は、2004年頃には一通り収束を見てしまった「メアリー論議」でなされることがなかった。

 そんな、一度終わった「メアリーの部屋」を2023年以降、AI倫理の観点で国際的にリバイバルさせているわけです。

 メアリー同様、重力波やブラックホールに関する高度な学術情報は多くの科学者たちが手にしていた。

 そんな私たち人類が、初めてブラックホールを目にし、そこで「新たに学ぶものは何か?」という問いを考えるとき、そのような「知覚の外延」を可能にする武器の中に、機械学習システムも含まれていることに留意する必要があると思うのです。

 ただし、ここでも最終的にその「観測結果」を受容、評価するのは、あくまで人類であることを見失ってはなりません。

 企業活動で考えるなら、顧客のリアクションであり、経常収支であり、結局は生身の人間が責任を引き受ける必要があります。