放送法の時代錯誤がいっそう際立つ

 NHKが掲げる公共性の理念が不確かなものに映れば、国民との信頼関係の維持は危うくなるでしょう。もともと受信料制度に対して根強い反発が厳然としてあります。今後、放送法の時代錯誤がいっそう際立てば、反発が増長し、NHKからの離反を招く可能性があります。

 有識者会議では、NHKの収入の約97%を占める受信料について、その是非や、あるべき姿などの十分な議論がないままに「ネット事業拡大ありき」で結論を出しました。ネット利用者から料金を徴収することも提言していますが、対象となる条件は、スマホを保有しているだけではなく、アプリをダウンロードし、個人情報を登録した場合としています。つまり、視聴の意思表示があった時点で徴収するということです。

 テレビはNHK番組の視聴の意思に関係なく、それを保有したら受信料を徴収されるので、整合性が取れていません。おそらく、そんな批判を招くことも織り込み済みで結論を急いだのだろうと推察します。

 ネット業務を放送と同じ「必須業務」に格上げし、受信料問題は棚上げするというのは、NHKとしては思惑通りでしょう。これで名実ともに公共放送から公共メディアに変身します。

 しかし、問題を置き去りにしたままでは、多くの国民の不満は解消されません。業態が変わるタイミングは、受信料問題を見直す前提で真剣に議論するよい機会になるはずなのに、看過した代償は案外大きいのかもしれません。