文=松原孝臣 写真=積紫乃
最初の転換点はステファン
原孟俊には、自身のデザイナーとしてのターニングポイントがあった。
「いちばんの転換点は、ステファンですね」
ステファンとは、ステファン・ランビエールのこと。現役時代も引退した今日も、その活躍と存在感から、フィギュアスケート界では知らぬ者のいない人だ。
原は「ファンタジー・オン・アイス」にアドバイザー的にかかわる中で、ランビエールと知り合った。
あるとき、ランビエールが今までと違う雰囲気のものにしたい、本格的に衣装製作をお願いしたいという話が「ファンタジー・オン・アイス」を担当する衣装デザイナーである折原美奈子にあった。
「でも自分ではやれないと思ったらしいです。いかに彼が繊細で鋭敏な感覚を持っているかは彼女も知っていましたから」
そこで原がランビエールから直接依頼を受け、担当することになった。
「そのときにお願いされたのがスイスで行われる『アート・オン・アイス』というショーで滑るプログラムのためのものでした」
それを知ると重圧を感じた。
「『アート・オン・アイス』は世界のアイスショーの中でもトップ3に入るぐらいのショーだと知りました。なおかつステファンはスイスの英雄ですし、しかも『ショーのオオトリのプログラムです』と話があって。戦慄でした。そこでコケたらすべて終わりだな、と思いました。本人と直接メールなどのやりとりをして、デザインを決めてマテリアルを決めて、と慎重に進めていきました」
そうしてできた衣装とともに滑ったプログラムは当時高い評価を得た。
「本人もすごく気に入っていて、その後の日本でのアイスショーでもずっとそのプログラムで滑り続けてくれて。そのときの一連の経験が、自分の方法論はもしかしたらこの世界で通用するのかもしれない、という思いが確信に変わった瞬間でした」
その後、本格的に衣装のデザインに取り組み始め、「ファンタジー・オン・アイス」でもアドバイスをする立場からデザイナーとして参加を始めた。
「羽生結弦さんとかジョニー・ウィアーさんとか、出演されているスケーターの方とのリレーションが始まったりとかしていきました。そういうのも大きかったですね」
スケーターたちと関係を築けたことは、デザインの依頼を受けるなどのちのちにいきることになった。