「大輔は大変だから」

2018年12月24日、全日本選手権、男子シングルでFS『Pale Green Ghosts』を演じる高橋大輔 写真=長田洋平/アフロスポーツ

 もう1つ、ターニングポイントをあげる。

 高橋大輔が現役復帰した2018-2019シーズン、原はショートプログラム『The Sheltering Sky』、フリー『Pale Green Ghosts』の衣装のデザインを手掛けた。

「ステファンのように、鋭敏な感性を持ち合わせている。感覚を持っている。その人に自分がプレゼンテーションして通用するのかしないのか。そういうことを思いながらスタートしました」

 高橋のコーチやスタッフからも「大輔は大変だから」と言われていたという。高橋の衣装へのこだわりがそこにもうかがえた。

 だが、いざデザインを提案すると、意外な反応が返ってきた。

「それでいいです。問題ないです。そう言っていただいて、スムーズに進みました。一度引退する前のときとは雰囲気だったり、表現を全然違うものにしよう、提供したいと思ってプレゼンテーションして、満足していただけたのは大きかったですね」

 そしてこう続けた。

「スムーズに行ったことに対して周りの方たちがびっくりしていたのが印象的でした(笑)」

 そののち、高橋は村元哉中とともにアイスダンスに挑戦。原は2人のために衣装のデザインを提供し、昨シーズンはリズムダンス、フリーダンス、エキシビションとすべてを担当した。

 今年5月に高橋は引退を発表したが、アイスショー用に準備している新プログラムの衣装も担当する予定があるという。それらは原への信頼を思わせる。

 

最初に湧き上がった「着火点」を忘れない

 たしかな地歩を築いた今、原はこう語る。

「僕の場合、服飾の学校は出ていないし、誰かに何かを教わった要素というのはあまりなくて、自分のエクスペリエンスと実地の中で積み上げてきているものしかないんですね。そうすると、何がいちばん自分を育ててくれるかというと、すごい人と仕事をすることなんですよね。その人たちが何を見ているのか、何を大事にしているのか、同時に何に困っているのかが見えるとそのときに自分が成長する。ステファンもそうだし、高橋さんがそうだし、羽生さんもそうです。そういう人たちとかかわることで自分の経験値が高まるスピード感みたいなものが要所要所であったなと思います」

 デザインにおいて大切にしていることとは? そう尋ねるとこう答えた。

「いちばん最初にインスピレーションが湧いたり、こういうことができたら面白いなって思う瞬間、着火点みたいなものがあって、やっぱり最終的にはそれが正しいんですね。でもやっていく中でそこを抑制しなければいけなかったり、あきらめたりすることがどうしても出てきてしまう仕事でもあります。それでも最初に湧き上がった着火点みたいなものを忘れない、見失わないようにすること。自分自身が信じてあげること。それが必要だな、と思います。最初の着火点に対して高い純度のままアウトプットできるようにしていきたいですね。自分の中では、ステファンの衣装だったり高橋さんの『Pale Green Ghosts』がそうです。羽生さんと内村さんのコラボの衣装『Conquest of Paradise』は、1つのメルクマールというか完成形だと思っています」

 新たなシーズンへ向けて、多忙な日々をおくる中、原は言う。

「衣装はいいパフォーマンスのためでもありますし、モチベーションを上げるものでもあります。周りに『いいね』と言ってもらえることで、ご本人の気持ちもあがりますから。そういう衣装をデザインしていきたいですね」

 スケーターが氷上で輝くために。その思いを胸に、デザインと向き合う。

原孟俊(はらたけとし)衣装デザイナー。10代の頃からギタリストとして活動を開始、レコーディングやツアーに参加するなど活躍。一方で衣装へのアドバイザーとしての活動も始め、さらにデザイナーとして数々のスケーターの衣装デザインを手掛ける。また「ファンタジー・オン・アイス」「notte stellata」などアイスショーも担当する。Instagram:@taketoshihara