文=松原孝臣 写真=積紫乃

まず最初は音楽から

 長年ギタリストとしての活動に主軸を置き、服飾の専門学校などでデザインの基礎を学んだことがない原孟俊は、どのように衣装デザインを創造していくのか。

 すると、原はタブレット上に画像を表示した。それはアイスショー「notte stellata」での羽生結弦と内村航平のコラボレーション『Conquest of Paradise』の衣装デザインの経緯を示すものだった。 

「最終的にどういう形でデザインを落とし込むのか、ムードボードなどと一緒に一枚の俯瞰図にまとめたものです」

 ムードボードとは、アイデアやコンセプトなどを紙や画面上にまとめたもので、ファッションやインテリアなどで用いられているものだ。

 その画像には、上から下へと流れるように順序だてて、絵や言葉がまとめられている。そのいちばん上には、作曲家のヴァンゲリスと曲について書かれた文章がある。その下には、さまざまなファッションの画像やマテリアルなどをクローズアップした画像が何枚も連なり……やがて最下部に衣装のデザイン画が描かれているのが目に留まる。

「最初は音楽から始まります。ですから上には、まずヴァンゲリスというアーティストの説明を書いています。ヴァンゲリスはギリシャのアテネ出身で、過去にオリンピックのテーマ曲を書いたり、『炎のランナー』というアスリート色の強い映画の音楽もやっていたこともあります。基本的にオリンピズムみたいなものとの関連性がすごく強いという要素を説明してます。では曲自体はどうなっているのか。この曲は映画のサウンドトラックですが、ヨーロッパの舞踏の『フォリア』という様式とアレンジをベースにした曲になっています」

 それがコンセプトの核となる。

「加えて、この2人でどういう風にするべきなのかというときに、基本的に既存のコレクションだったりをもとにムードボードを作るんです。パターンとしてこういうムードを出したいということ、生地感としてギリシャやオリンポス時代の衣装様式にしたいということ、マテリアルの提案もして、絵は最後なんですね。今回は羽生さんに3タイプ、内村さんに2タイプデザインをご用意して、その中から決まりました」

 その工程を編み出した理由をこう説明する。

「この曲にはこういう理由や根拠があって生まれて、このアーティストさんがどこの国の人で、いつ頃生まれた人で、こういう時代背景がある。その年代の時系列と、いわゆるファッションの時系列みたいなのもあるので、そこが交わるところがあります。だからアレンジや歌詞も含めてこの曲ならこういう衣装が、と提案する形でスタートします。いちばん大きな効果というのは、その衣装を製作する際、向かうべきクリエイティブの方向性にブレがなくなるので、スケーターさん本人含め、全員がその部分に迷うことが少なくて済むということですね」