(取材・文:松原 孝臣 撮影:積 紫乃)
華やかだけではない男子フィギュアの衣装
フィギュアスケートは音楽を用いた作品としての芸術的な領域と、順位を競うスポーツの両面を備える。フィギュアスケートがアートスポーツであるゆえんである。
選手それぞれに、濃淡はあっても意識はしているだろう。その中でも、伊藤がこう語る選手がいる。
「フィギュアスケートがアートスポーツであることを理解されていて、自身の美学があるなと感じます」
羽生結弦である。
「単純に華やかなのではなく、世界観が表れる衣装にしてほしい、とは言われています。羽生さん自身、自分に似合う衣装のイメージを持っていると思います。フィッティングのときにも、『もっとここをキラキラさせてもいいと思います』と意見を言ってくださる」
同時に、競技の流れにも対応していかなければならない。近年、フィギュアスケートにおいて目立った動きの1つが、男子における4回転ジャンプの増加だ。衣装にもその波は押し寄せた。
「『できるだけ軽くしてほしい』という要望は年々、強くなっていますね」
選手はすぐ「前の衣装よりも軽いです」と気づくという。
2015年以降、毎年依頼を受けてきた羽生結弦の衣装も軽量化が図られてきた。2015年の頃は約850グラムだったが、昨シーズンのショートプログラム『秋によせて』、フリー『Origin』はともに610グラムくらいになっている。
「素材は常に繊維街などでチェックし、軽くて伸縮性のあるものを探しています」
ぎりぎりまで軽量化を図り、一方では装飾などを施す。ある意味、相反する作業を両立させることを求められる。その中で成立させてきた。
