スケーター自身のパーソナリティを重視

 手法は、他のスケーターでもかわらない。そのうえで、デザインを考えるにあたってポイントとした部分をこのように語る。

「坂本花織さんの昨シーズンのショートプログラムだったジャネット・ジャクソンのメドレーの場合は、90年代的なテイストと黒人音楽的なディーヴァテイストをどういう風に衣装に反映させるかというところがいちばんのキーポイントでした」

2022年12月22日、全日本選手権、女子シングルでSP『Rock whith U/Feedback』を演じる坂本花織 写真=西村尚己/アフロスポーツ

「渡辺倫果さんのフリー『JIN-仁-』は、作品自体が幕末から明治に向かう時期なんですね。そのあたりの時代というのは和洋折衷的なカルチャーが盛り上がっていった時代です。他の幕末を設定とした映画や漫画、ゲームなど他のクリエーションも参考にしながら、いわゆる和っぽいんだけれど同時にヨーロピアンなテイストと半々ぐらいになるようなバランスにしたいと考えました。それをベースにして、音楽自体も例えばどういうアレンジになっているのか、どういう楽器が入っているのかみたいなことをアナライズして着地させた感じです」

2023年3月24日、世界選手権、女子シングルでFS『JIN-仁-』を演じる渡辺倫果 写真=西村尚己/アフロスポーツ

 アーティストや曲に加えて、スケーター自身のパーソナリティを重視すると言う。

「やっぱり本人が持つムードがありますし、ボディバランスもそうですし、性格やまとっているオーラみたいなものも重要視します。それはどちらかというとスタイリング的な領域ですが、音楽を軸としたコンセプトとその人に似合うかどうか、両輪として大切にしていますね」

 綿密に調査し考証したうえでコンセプトを打ち立てる。そこへのこだわりの一方で、パターン、カッティングという部分を自身で行うことにはあまりこだわらない。むしろ任せられる人に任せるスタンスを持つ。服飾の学校などで学んでこなかったこともあるかもしれないが、原はこう考えている。

「以前、高橋大輔さんがアースジェットのCMに出演されたとき、衣装のデザインとコンセプトを僕がやったんですね。そのときに思ったのが、CMとかはクリエイティブディレクターみたいな方がいらっしゃるじゃないですか。話をしてみると何処か通じるところがあるんですよね。僕も衣装のデザイナーではあるけれど、純粋な服飾関係のデザイナーというベクトルよりもクリエイティブディレクションの領域に入っているというか。CMでも舞台でも映画でも、衣装のコンセプトを考えること自体が仕事である方がいらっしゃる。ただ、日本だとあまりそういうことが認知されていないので、そういう意味では自分のスタンスは少し特殊だなとは思います。だから本来であれば『コンセプトディレクター』という立ち位置でもあるんだろうな、と思うんですね」

 そのスタンスに、自身の手法に、確信を持てたターニングポイントがあったという。

 それは2人のスケーターの衣装を手掛けたときだ。(続く)

原孟俊(はらたけとし)衣装デザイナー。10代の頃からギタリストとして活動を開始、レコーディングやツアーに参加するなど活躍。一方で衣装へのアドバイザーとしての活動も始め、さらにデザイナーとして数々のスケーターの衣装デザインを手掛ける。また「ファンタジー・オン・アイス」「notte stellata」などアイスショーも担当する。Instagram:@taketoshihara