制服組が頻繁に出入りした前例のない官邸
統合幕僚長になってからは、基本的に週1回は自衛隊の動きについて総理に直接報告するようになった。
加えて事案が起きるたびに報告に伺った。それまで制服組が官邸に頻繁に出入りする光景などあり得なかった。
日本では戦時下での軍の独走という経験をしていることから、シビリアン・コントロールとは、自衛隊を極力政治から遠ざけることだとの考え方が主流だった。
簡単に言えば自衛隊と政治の間に官僚機構が入るというシステムだ。しかし、安倍総理は逆だった。
政治と自衛隊の距離を近づけることが、真のシビリアン・コントロールを確立する上で不可欠だと考えられていた。
安倍元総理は、「戦後レジームからの脱却」という大きな理想を抱きながら、そこに至るまでは徹底した現実主義者でもあった。
例えば憲法9条への自衛隊明記を掲げたが、真の狙いは自衛隊に軍隊としての確固たる地位を確立させたかったはずだ。
集団的自衛権の“限定的”行使しかり、慰安婦問題を巡る日韓合意しかり、8月15日の総理談話しかり、である。ある意味で妥協だが、状況を一歩でも理想に近づけるにはどうすればよいかを考え、決断されていた。