「精神科訪問看護」という仕事がある。精神疾患や様々な心の葛藤を抱えながらも地域で暮らす患者の元を訪問する看護サービスだ。事業者によって内容は異なるものの、統合失調症、双極性障害、強迫性障害、うつ病、精神発達遅滞など様々なタイプの患者を扱う。
看護師が自ら会社を立ち上げることもあり、この10年でサービスは増加してきた。患者の生活に踏み込む精神科訪問看護だから見えることとは何なのか。『魂の精神科訪問看護』(幻冬舎)を上梓したソレイユ訪問看護ステーション所長の西島暁子氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──精神科の訪問看護では、患者の自宅に訪問することで、患者の生活や家族との関わりがよく分かり、これが治療や看護に大いに役立つ、というお話がありました。訪問することでどういったことが見えるのか教えてください。
西島暁子氏(以下、西島):見えることはたくさんあります。たとえば、患者の家と隣の家の距離が非常に近かったり、アパートであれば壁が薄かったりして、お隣さんの生活音が過剰に耳に入って患者に負荷がかかっていることがあります。
家族と同居の場合は、家族との関係がよく分かります。患者に何か質問すると、患者より先にご両親が何でも質問に答えようとすることがあり、これまでも過干渉気味に両親が患者の人生を引っ張ってきたことがうかがえます。
逆に、精神的に不安定な患者に家族が怯え、腫物に触るように患者の要求に何でも従っている状況もあります。
処方された薬をちゃんと服薬しているかも訪問すると分かる重要なことです。精神科医に対しては薬を飲んでいると言っているけれど、実際には薬を飲んでいない患者もいて、家に行ってみると、1年分くらいの薬がたんまり溜まっている。必要な服薬を怠れば治療はなかなか進みません。
お金の管理が上手にできなくて困っている単身の生活保護受給者もいます。月頭に保護費が入るのですが、入った途端にパチンコ、タバコ、食費に使ってしまい、月末にはカツカツになっている。
誰でも経済状況が悪化すれば焦りを感じますが、精神疾患を抱えている人はもっと強烈に焦燥感に打ちのめされる。自分の中で焦りを増幅させてしまうのです。
生活を見ていると、病院や就労支援に行かなくなっていることも見えてきます。話を聞いてみると、通所先での会話で、ちょっと何か言われて勝手に悪く取って「あの人たちとは縁を切る」「もう二度とあそこには行きたくない」と怒りを膨らませていたり、悩みを募らせたりしている。
少し話をして、別の受け止め方を提示すると、また行けるようになることもあります。通院のカウンセリングだけだと、患者の簡単な説明で通り過ぎてしまいがちなところでも、よく見えるからより話ができることがあるのです。
──患者としては、自分がクリニックや病院の精神科に行くよりも、訪問看護してもらうほうが、気が楽なのでしょうか。