コロナ前は頻繁に見られた中国人観光客の爆買い。今では日本国内の不動産を取得する中国人も当たり前の光景に(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 外を歩くと、電車に乗ると、レストランに入ると、どこからともなく聞こえてくる中国語の話し声。思わずちらりと目を向けると、どこか生活感のある、短期的な旅行者とは思えない中国人の姿が目に入る。「中国人を見かけることが多くなったな」と心の中でそう呟く人は少なくないのではないか。

 日本に移住する中国人が増えている。中国経済が大きくなったこのタイミングで、なぜ中国人はわざわざ日本に移り住むのか。『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)を上梓した中国関係が専門のジャーナリスト、中島恵氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──カナダ、イギリス、シンガポール、マレーシアなど、中国人の移住先は多様ですが、中でも日本は大人気の移住先になっていると書かれています。なぜ、皆さん日本に移り住みたいのでしょうか。

中島恵氏(以下、中島):理由はたくさんあります。日本は距離が近い。物価、家賃、食費が安い。治安が良く、子どもが一人で出かけられるほど安全である。このような「近い、安い、安心、安全」といった理由があげられます。

 加えて、気候が中国に似ており、夏は暑いですが冬はそれほど寒くありません。空気はきれいで緑も多い。さらに、政治的にも安定している。漢字も使うし、同じアジア人だから顔も似ているので馴染みやすい。こういった理由もあげられます。

──中国人の学生に日本の大学受験指導を行っている千代田教育グループ会長の栗田秀子氏は、「2008年頃から日本の大学の受験対策を希望する留学生が増え始めた」「2014年頃からは美術やアニメを学びたいと希望する学生が増えたので、美術専門のコースを設置した」と本書の中で語っています。また、別の個所では早稲田大学に進学する中国人留学生が多いとも書かれていました。

中島:日本で最も多く中国人の留学生を受け入れているのは早稲田大学です。早稲田大学の発表によれば、2021年の中国人留学生の数は3322人で、全留学生のおよそ半分が中国人でした。

 中国人が日本に留学することを望むのは今に始まったことではありません。この30年ずっと日本に留学する学生の数は増え続けてきました。日本には中国では学べないことが数多くあります。

 そして、人口の多さに対して、中国には良質な大学が少ない。日本の方が先に経済発展しているので、日本の方が進んでいる研究分野もあります。

 近年では中国の学生の進学希望先も多様化していて、必ずしも簡単には就職につながらない音楽や美術といった専門分野を目指す学生も増えてきました。経済的に余裕がなくなる日本人が増えて、音楽や美術などを専攻する学生が減ってきているという意味では、逆の現象だと言えます。

──中国の受験戦争はどんどん厳しくなっているのでしょうか?