「あいつ放り込んでおいたんですわ」

佐高 そう。「いい人」というのは田中の言い方ですが、相手が闇社会の住人であっても、物書きにとって、心を許すというか、取材対象のキャラクターと相性が合うかどうかというのはポイントになってきますよね。

 たとえば、許永中と親交があった亀井静香ですが、私はけっこう近いんです。悪名高き亀井だけれども、肌が合いさえすれば、どこか愛嬌があるんですね。

 ありますよね。

佐高 ワルの愛嬌というかね。許永中はなぜ森さんを気に入ったのか。彼にしてみれば自分がコントロールできると思っても、森さんはコントロールから外れたことを書く人なわけじゃないですか。

 つまり、許永中には、自分がコントロールできる書き手とつき合おうという完全な計算があるわけじゃない。森さんも私も、フリーの書き手というのはそういうものだし、極端なことを言えば、明日どうなるか分からないところで何とか筆一本で生計を立てている。許永中は単に利用するということだけではなく、フリーの物書きのそういう部分も見ていたんじゃないかなとも思うんだけど、どうですか。

 それはあったかもしれません。だから、コントロールできると思ってつき合っていたのか、そうではないのか、分からないところがある。

佐高 では、あえて逆に、森さんから見た許永中の魅力というところからいきましょうか。

 魅力ですか。それは一言で言うと、人たらし的なところじゃないですかね。僕が初めて会ったとき、こんなに爽やかな人なのかというのが第一印象でしたね。

佐高 ほう。

 拘置所の面会室での話です。こちらは緊張するじゃないですか、どんな強面なんだろうか、と。

 それまでも許永中とはいろんなところですれ違っていて、様々なことを伝説的に聞いてはいました。許永中の身近な人を僕はよく知っていて、たとえばKBS京都の内田和隆。京都新聞グループの副社長だったかな。KBS京都の内紛に乗じて、許永中が介入していったときに組んだのが内田です。結局その内田も許永中とは袂を分かっていくんだけれど、僕はイトマン事件*4のころからネタ元にしていました。もう十数年前に亡くなりましたけど。

*4 イトマン事件 大阪の中堅商社「イトマン」から3000億円の資金が闇社会に流出した事件。“戦後最大の経済事件”とも称される。1991年7月、同社の河村良彦前社長が自社株取得容疑、伊藤寿永光元常務と許永中が特別背任容疑で大阪地検に逮捕。バブル経済下でもてはやされた絵画ビジネスが初めて罪に問われた。許が保釈中に逃亡するという異例の展開を経て、初公判から14年が経過した2005年10月、許は懲役7年6カ月、罰金5億円、伊藤は懲役10年、河村は懲役7年の実刑が確定した。

 内田から聞かされる許永中のエピソードというのが、結構エグい話が多くて、たとえば、敵対する相手を拉致して地下室に閉じ込めるんだ、と。閉じ込める部屋をつくっているといってそこを見せられ、「あいつ行儀悪いからここに放り込んでおいたんですわ」みたいなデモンストレーション的なことを言われたとか、周りの子分連中をむちゃくちゃ殴ったりだとか。だから許永中に対しては不気味な印象はありましたね。

佐高 それは、許永中の一般的なイメージとも重なりますね。

 そう。ところが、面会室でパッと見た第一印象は、それとはガラッと違っていて、非常に声が高くて、はっきりしゃべる。

佐高 金属音みたいな感じ?

 そこまで高くはない。爽やかな声ってあるじゃないですか。アナウンサーがしゃべるような声で、「森さん、リラックスしてくださいね」と、第一声はそんな感じじゃなかったかな。

佐高 リラックスできるわけないよね(笑)。