ブランド品を買い漁る豪快さ
森 そうなんですが、許永中は、「私はいつもこんな感じで、ラフな感じで皆さんとおつき合いしますから」というようなことを言うので、こちらは「あれ?」となってしまった。
佐高 意外な一面を見せられたわけですね。
森 そういう感じでしゃべって、その後の手紙のやりとりでも、関係がうまくいっているときは、何でも訊いてくださいみたいなことを言われましたね。そういう意味で、人を惹きつける力はあるのかなと思いました。
佐高 逆に言えば、結局それだけですよね。それだけでのし上がっていくわけでしょう。
森 そうなんです。
佐高 許永中を警戒している人とか、また、会っちゃいけないと思っている人に、取り入っていくわけですよね。
森 取り入って、結局、引っ張り込んでしまう。皆、そうなっていますよね。亀井もそうだったろうし、フィクサーとして許永中と深く関わった福本邦雄*5もそうだったんだろうと思います。
*5 福本邦雄(1927〜2010) 第二次共産党結党時の理論的指導者だった福本和夫の長男として生まれる。東京大学経済学部卒業後、入社した産経新聞社から1959年に第二次岸信介内閣の椎名悦三郎内閣官房長官秘書官に出向。61年に独立し、コンサルタント会社や画廊を経営。そのかたわら、いくつもの政治団体を主宰し、自民党と経済団体の橋渡し役となる。89年、許永中の要請によって旧KBS京都(京都放送)社長に就任するも、前社長がイトマン事件に絡んで受けた融資の担保として社屋や放送機材を入れていたことが判明し、辞任。
佐高 亀井は、片足の半分以上、闇に突っ込んでいる人という印象もあるけれど、一応東大卒のエリートじゃないですか。
森 警察官僚ですからね。
佐高 それから福本だって東大卒で、元共産党員で、産経の記者。
森 戦前の共産党の理論的指導者だった、福本イズムの福本和夫の息子ですからね。
佐高 だから結局、許永中のほうが彼らよりもっと凄まじい泥水を飲んできてますよね。
森 それは間違いない。
佐高 そうすると許永中から見ると、亀井なんかは「大悪」ではなく「中悪」に見えるのかな。
森 多少は悪を知っているとはいえ、所詮エリートで勉強ができてという優等生のレールに乗ってきた人が、何を言えば喜ぶかとか、許永中は知り尽くしていたと思います。
もう一つは金でしょう。札束をどんと積んで、これでどうだとやる。許永中のよくやる手としては、プレゼント攻勢ですね。街金融業のアイチの森下安道*6のところへは、社員にゴルフの純金のパターをプレゼントしたりする。
*6 森下安道(1932〜2021) 愛知県生まれ。バブル期に貸付総額1兆円を超える大手ノンバンク「アイチ」を率い、“街金の帝王”“地下経済の盟主”と呼ばれた。
佐高 森下にではなくて。
森 そう、森下にじゃなくて、自分の融資窓口の担当者にプレゼントするんです。
佐高 なるほど。現場の心をつかむわけね。
森 担当者はもう、「永中さん、永中さん」という感じで心酔していましたね。一流ブランド店に行って、「ここの右から左まで全部くれ」みたいなことを言って買い漁る。全部他人の金なんだけど、豪快と言えば豪快ですから、皆たまげて、ついつい引き込まれていくんじゃないかなと思いました。
田中森一にしても、許永中のそういう豪快さに引き込まれていった部分があるんじゃないかという気がします。
佐高 田中にしても元検事ですからね。ちゃんとした世界を歩いてきた人だからこそ、許永中の野卑なまでの豪快さに惹かれてしまう。