宿泊管理システムのDX化でリモートワークを実現
今後も深刻さが増しそうなホテル業界の人手不足問題だが、現場スタッフも含めた省力化や効率の良い運営体制を構築していかなければ生き残れない。
東京都内のホテル運営会社で開業プロジェクトなどを担う大矢雄一郎氏(46)は、今年3月から故郷である青森県八戸市に家族とともにUターンし、リモートワークに切り替えた。地方移住はコロナ禍を機に決断したというが、理由はそれだけではない。
「東京にいた頃に比べて、もちろん生活環境は大きく変わりましたが、市内のコワーキングスペースに出向けば、多業種の方々とさまざまな情報交換もでき、大いに刺激を受けます。こうした経験は東京にいてはなかなかできませんし、ホテル業に携わる身として視野が広がり、仕事にも活かせるのではないかと思いました」(大矢氏)
2019年12月に開業したGEN HOSTEL(ゲンホステル)株式会社による「Wild Cherry Blossom-HOSTEL, TOKYO KOGANEI」は、大矢氏が中心となって手がけたホステル事業だが、コロナ禍を経てリモートでも可能な事業環境を築いてきた。
Googleワークスペースをクラウドベースとして情報共有したり、ホテル運営の基幹となる宿泊管理システム(PMS)をクラウド化したりもした。その結果、八戸での大矢氏の仕事は東京にいた頃とあまり変わらない。日常的なミーティング、ブリーフィングといった仕事から経営企画、事業企画などのデスクワークもリモートでこなす。
「ホステルではイベントなども催されますが、現地スタッフだけでは持ち合わせないアイデアがリモート会議によって生み出されることもあります。対面では忖度したり言いづらくなってしまったりすることもありますが、適度な距離感でかえって新しい発想が芽生えることがあることに気づきました」(大矢氏)
八戸のコワーキングスペースでは、地元で宿泊ビジネスをやりたいという人へノウハウを提供したり、アドバイスをする機会もあるという。宿の多様化や観光客へのアプローチも含め、地元でのホテル開発支援や協業の可能性も広がってきた。
「先日、地元で東京のホテルの採用条件を話したら、あまりの給与の高さに驚かれ、『それだったらぜひ行ってみたい!』という人がいました。もちろん地方から都会へ出ることは容易ではありませんが、ホテルが溢れる都会や観光地と地方のパイプ役も担えるのではないかと感じました」(大矢氏)
ホテル業界の人手不足に関しては、DX活用の可能性をはじめ、多様な働き方が模索されているが、まだまだ黎明期といえる。アフターコロナのインバウンド需要や消費のさらなる活性化を図る意味でも、ホテル業界の変革は待ったなしといえる。