人手不足の中、コロナ対応に追われたホテル業界(写真はイメージ)

(瀧澤 信秋:ホテル評論家)

現場の不満が爆発「急に求人募集しても人は集まらない」

 コロナの水際対策緩和によるインバウンド増加や「全国旅行支援」などが影響し、観光需要が再び高まっている。全国旅行支援の制度に関する詳述は避けるが、やはりというか「Go Toキャンペーン」時と同様に、その是非についてはさまざまな議論が起きている。

 功罪でみてみると、観光需要喚起という“功”は分かりやすい。旅にポジティブムードは大切であり、「ようやくコロナも落ち着いてきたので、キャンペーンを使ってお得に旅行しましょう!」とあちこちのメディアで繰り返し報道されれば、否が応でも旅行ムードは盛り上がり消費も活性化する。もちろん、長らくコロナ禍で苦しんできた観光業界にとっては歓迎する向きも多い。

 筆者もコロナ禍においてホテル取材がままならない時期が長かったが、今年の春以降は月平均28泊ペースで精力的に取材を続けてきた。だがその間、全国旅行支援の開始が延期されるなど、波乱に満ちた現場を見つめる日々となった。

 全国旅行支援はGo Toキャンペーン時の残った予算を活用し、Go Toキャンペーン一時休止からの延長的な性格を帯びているが、Go Toトラベルが“GoToトラブル”と揶揄されたように、観光需要喚起策には大きな混乱が付き物という認識も広まっていた。

Go Toトラベルキャンペーン時も混乱続きだったホテルの現場(写真はイメージ)

 宿泊業の現場に限っても、全国旅行支援のスタート前から戦々恐々の雰囲気が見られた。制度の概要や仕組みに関する情報が宿泊施設の現場に届かず、複雑な手続きなどが現場を悩ませたのはGo Toトラベル時と同様だった。加えて人手不足という根本的な問題も解決されずに残っていた。

 コロナ禍で予約が激減していた宿泊施設にとって、経営難からやむを得ず人員を減らした施設が多く、そうした環境下のままで一気に押し寄せたのが観光需要喚起キャンペーンだ。前々から旅行支援の概要や観光需要が戻ってきそうな時期が把握できていれば、まだ対策をとる余地もあっただろうが、一気にピークを引き起こすキャンペーンはボディーブローどころかストレートパンチのように現場をさらに疲弊させる。

「急に求人をかけても人は集まらないし、宿泊業のスキルを考えれば、ただ人員がいればいいというわけではない」
「頭を下げて辞めてもらった従業員においそれと戻ってほしいとは言えない」
「キャンペーンを強く推すホテルの経営層は、対応する人手の根拠や手当てを示してほしい」

 宿泊現場のマネジャークラスからはこんな嘆きも聞かれた。人手不足の環境下でキャンペーンが実行されると、ますます離職者が増え、残った人員で激増する作業をこなさなければならないという。しかも繁忙期に賃金面の手当てがなされないのであれば、現場の不満が爆発するのも当然だろう。