能力や経験値の高い人材は高級ホテルに引き抜かれていくケースも
ホテル業界の人手不足について、筆者は2016年頃より各媒体で警鐘を鳴らしてきたが、コロナ前のインバウンド活況→ホテル激増により、すでにその問題は露呈していた。新規開業予定のホテルプロジェクト数からしても、深刻な人手不足が続くことはコロナ禍が始まるずっと前から目に見えていたのだ。
とはいえ、ホテルを建てる側は、まずは宿泊需要を見込んだエリアに建物を造り完成させることが先決であり、その後の運営にまつわる人手については「何とかなるだろう」程度の認識というケースが多々あった。
人手不足対策として手っ取り早いのは、やはり高時給による人材確保だ。たとえば大阪にある100室規模の宿泊特化型ホテルでは、募集時給が低廉だったコロナ禍の時から先を見越して高時給で求人を続け“囲い込み”に成功。急激な需要の高まりで現場を混乱に陥れたGo Toトラベルや全国旅行支援も難なく乗り越えてきた。
ホテルは所有と運営の分離が一般的であるが、このホテルはオーナーが運営も手がける独立系のホテル。オーナー=運営という当事者意識がスピーディーな対応を可能にさせたのかもしれない。
ただ、「募集しても人が来ないのなら時給を上げればいい」という意見はよく聞くが、果たして最善策といえるのだろうか。一般論としては理解できるものの、ホテル運営の現実を垣間見るとそう簡単でもないようだ。
まだ開業間もない200室規模の都内ビジネスホテルの支配人によると、「ホテルの仕事はある程度の専門性も必要で、仮に高時給を提示して応募があったとしても、即戦力として期待できるのはごくわずか」と話す。
また、能力や経験値の高い人材が高級ホテルに引き抜かれていくのは、ホテル業界の人材争奪戦ではよくあること。確かにホテルスタッフとして一通りの能力が身につくまでには相応の時間を要する。
「まずは低水準の条件で募集をかけつつ、個々人の能力に応じてフレキシブルに対応するのがスタッフ募集の慣例だが、現状そのやり方で応募してくる人はいない」と前出の支配人は頭を抱える。