早朝からホテル支配人が客室のゴミ回収に奔走

 人手不足により客室を売ることができないとしたら、ビジネスチャンスを逃すことになるが、今のところ取材をした前出の長崎のホテルも都内ホテルもそこまでの事態には至っていない。

 確かにある程度の規模のホテルであれば、システマティックな運営という点からも人手不足で部屋が売れないという事態は避けられるのかもしれない。全国旅行支援の高稼働時に「人手不足で稼働を落としたことがあるか?」という業界関係者によるアンケートでは、稼働を落としたホテルはほぼ皆無というデータもあった。

 だが、データの対象には表れない小規模ホテルはそうもいかない。以前、コロナ前のインバウンド活況時の人手不足について、一部稼働できない北海道のホテルを記事にしたことがあった。その部分だけが切り取られセンセーショナルに他のメディアや専門家も取り上げたりしたが、その際の取材ホテルも10数室という小規模ホテルであった。

 今回の取材で「人手不足により稼働を落としてきた」と取材に応じてくれたのも、全19室という海辺のスモールホテルだ。開業して3年ほど、コロナ禍でスタッフを減らすなどの対策をしてきたが、一転、Go Toトラベル時に一気に客室稼働率が上昇した。

 同ホテルでは90%以上の予約流入があったものの、人手不足で約60%しか稼働できなかったという。特に稼ぎ時である夏は、局所的に残業を増やして対応したものの70%を受け入れるのが限界だったという。

 全国旅行支援時はさらに深刻に。同ホテルの支配人は、「急激な予約流入で煩雑な作業など現場が回らなくなり、あまりの多忙さから春先には離脱(退職)した人が相次いだ」と打ち明ける。

 清掃スタッフも6名だったところ2名がやめてしまったという。その人数で回せるのは60%稼働がギリギリ。エリアで時給を上げて募集をかけ続けても応募はまったくなかったという。100%近い稼働が狙える夏のシーズン、残った従業員で“死ぬ気”で働き、最高73%の稼働となったというが、そんな運営が続くはずもない。

ホテルの清掃スタッフも足りていない(写真はイメージ)

 ホテルの従業員構成は社員である代表の支配人以外はすべてパートスタッフだ。12名のパートスタッフでシフトを組んでやりくりするが、人手不足で客室稼働を上げられない直接的な損失は相当だ。

 そのため、支配人は朝出勤したら清掃スタッフが来る前に、使用された客室のリネン類をまとめゴミの回収まで行う。清掃スタッフは10時スタートであるが、家事などの合間に来てくれるスタッフに残業はさせたくはないという思いから、支配人自らが現場清掃に追われる。14時には清掃スタッフによる客室清掃は終わるが、支配人やフロントスタッフはその後もダブルチェックに奔走する。

 同ホテルでは機会損失を補うべく、SNSも含めたメディア発信や地域も巻き込んだホテルブランディングの確立も図りたいと考えているが、現状まったく取り組めていないという。