野球、サッカー、バスケットボールなど、メジャースポーツでは、試合の戦略立案や対戦相手のデータ分析を担当する「データアナリスト」の存在が日本でも当たり前になりつつある。この流れは、カーリングにも波及しており、トップチームの一つであるフォルティウスもデータアナリストを採用した。
しかも、データアナリストに就任したのは、人工知能(AI)をカーリングの戦略分析や技術開発に活用している北海道大学大学院情報科学研究院の山本雅人教授だ。データ収集をきっかけに、以前から両者はつながりがあったというが、データアナリストをスタッフに迎える国内トップチームは珍しい。
氷上のチェスと言われ、戦略が重要視されるカーリングとテクノロジーの融合にはどんな可能性があるのだろうか。山本教授を訪ねた。(聞き手:人見 しゅう、スポーツライター)
カーリング戦略AI「じりつくん」の開発者
山本教授はカーリングファンの間では知られた存在だ。平昌オリンピックでロコ・ソラーレ(当時はLS北見)が銅メダルを獲得した試合を「じりつくん」で分析したことをきっかけに、多数のメディアに取り上げられた。「じりつくん」は山本教授が開発したカーリング戦略AIである。
その後も、Twitterアカウント「AIじりつくん」でカーリングに関わるデータの発信を続けている。
そんなこともあり、フォルティウスのデータアナリストに山本教授が就任したというリリースを見た時、戦術分析にAIを取り入れられるのだと筆者は想像していたのだが、山本教授に質問するとこんな答えが返ってきた。
「AIじりつくんは、シミュレーションの精度など追いついていないところがあるので、フォルティウスの分析には当面使わない予定です。各対戦チームとの戦績や得点経過、選手たちのプレーデータから何がわかるかということをベースにします」
なんとAIを使わないという。では、どのようにデータ分析を行うのか。それについて尋ねると、「どの様に分析するか公開すると、手の内を明かすことになってしまうのであまり言えないんです」と山本教授。
これは記事になるのだろうかと筆者が内心ドキドキしているのを察してか、「少し別のものにはなりますが」と、Twitterでも公開しているデータを使って、分析が選手の戦略に大きな影響を与え、精神面を支えうるものなのかを説明してくれた。
そして、「終盤で、リードして先攻か、もしくはリードされていても後攻かを選ぶ場面で難しい状況があります」と切り出した。山本教授が見せてくれたのは、2022年北京オリンピック前までの2000試合のデータをもとに作られた二つの勝率テーブルだ(勝率テーブルは次ページ)。