(写真:アフロ)

(塚田俊三:国際ジャーナリスト)

<本記事の要旨>

・サウジアラビアが原油取引において、ドル以外の通貨による支払いにも応じる姿勢を示している。またすでにロシアとの原油取引を人民元建てにしている中国は、サウジとの間でも人民元建て取引を協議中。

・また加盟国を増やしつつあるBRICSがドルに代わる共通通貨を検討するなど、世界各地で「ドル離れ」が加速している。

・原油と並ぶ戦略物資である半導体の最大の供給源・台湾で「親中政権」が誕生すれば、中国が半導体の供給にも強い影響力を持つ恐れ。そうなればますます「ドル外し」の動きが広がるだろう。

ドルの地位は多少の「ドル離れ」で揺らぐようなものではないと言い切れるか

 戦後長らく維持されてきたドル覇権が今深刻な脅威にさらされている。その背景には、ロシアのウクライナ侵攻を契機とする経済制裁の賦課とこれに伴うエネルギー需給の不安定化があるが、この流れを決定的なものにしたのは、本年に入ってから起きた(1)サウジアラビアの「ペトロダラー」の放棄であり、さらには、(2)急速に求心力を高めるBRICS諸国のドル外しの動きである。

 だが、多くの経済学者は、ドルの信任の高さ、ドルの取引市場の深さは他の通貨の比ではなく、たとえドル離れの動きが広まったとしても、それはドルの基軸通貨としての地位を脅かすようなものとはならないとするのが大方の見方である。

 しかし、このような見方は、ここ数カ月間、雪崩のように起きているドル外しの動きをみると、楽観的に過ぎると言わざるを得ない。その動きは、半世紀にわたって続いたドル覇権を根底から揺さぶるものになりつつある。

 本稿では、ここ数カ月の間に大きなうねりとなって表れてきたドル外しの動きをレヴューするとともに、今後起こりうる地政学的インパクトを占いたい。