2年ほど前から視聴率上位局の中には「TVerの再生回数が話題になるようになった背景には視聴率の信頼をなきものにしてしまおうとする下位局の思惑があるのではないか」といった声がある。よもや、そんなことはないだろうが、再生回数が持つ値打ちの分かりやすい説明が求められる。

収益的には高額なCM料がとれない再放送と同じ

 TVerの存在については大きな誤解もある。「視聴率史上主義は崩壊し、今や局の屋台骨はTVerが背負っている」というものである。そういった報道が一部にあるからだろう。

 本当だろうか。発表されたばかりの日本テレビの2022年度決算を見てみたい。地上波のCM売上高は2369億800万円。一方、TVerなどのデジタル広告の売上高は51億4600万円である。地上波のCM売上高の50分の1に過ぎない。伸びてはいるが、CM売上高には遠くおよばない。

 テレビ朝日の地上波のCM売上高は1791億4100万円。TVerなどの売上高を分類して発表しない。TBSの場合、同年度は地上波のCM売上高は1628億8500万円。一方でTVerなどの売上高は56億6800万円。CM売上高の約30分の1である。

 フジテレビは地上波CM売上高1603億8000万円に対し、TVerなどは48億6600万円である。約35分の1である。TVerが各局を支えているという声と事実は全く異なる。

 TVerは便利なツールだが、過大評価されているところがある。あくまで見逃し無料動画配信サービスであることが忘れられている。その仕組み上、収益が限定的にならざるを得ないことも広く認知されていない。

 TVerで流れるドラマなどは地上波の放送時のスポンサーが制作費を負担している。それをTVerで流す場合、新たなスポンサーから高額のCM料は取れない。

 制作費がかかっていないのだから、当然である。地上波の再放送と同じ理屈だ。民放のリーディングカンパニーである日本テレビが再放送をやらない理由の1つは売上高を落とさないためである。だからライバルのテレ朝が日中にドラマ『相棒』などを流し、その時間帯に高視聴率を獲得しても意に介さず、静観し続けている。