想像を絶する井山裕太本因坊の「強さ」

──特に井山さんはAIで育った世代でもありませんしね。

吉原 井山さんはいっとき成績が落ちた時期もありましたが、コロナでお休みの期間にAIもかなり研究されたのでしょう。何かを身につけたかのようにまた勝ち出されました。

 井山さんの能力や奥深さはレベルが違います。誰も成し遂げられなかった七冠制覇を2回も達成しているうえ、猛烈に忙しいスケジュールの合間を縫って出場した世界戦「テレビアジア選手権」で優勝、「農心杯(日中韓三カ国対抗勝ち抜き対抗戦)」では4連勝もしています。

井山裕太本因坊(写真は2021年「王座」就位式、撮影:内藤由起子)

 また、本因坊戦では前人未到の11連覇を達成しています。その時最も旬な棋士が挑戦者に名乗り出てくるタイトル戦で11連覇するということは想像を絶する記録です。そして、今月からは12連覇をかけた戦いが始まります。井山さんの偉大さはここでは語り切れないほどです。

 ただ、これまで井山さんは日本のタイトル戦で勝ち続けていたのに、世界戦にはあまり出られませんでした。なぜかというと、中国や韓国主催の世界戦は対局日程が急に決まることがあるからです。日本は例えば七番勝負の日程などは一年近く前に決まっているのですが、中国や韓国は「2カ月後に大会をやりますから、日本代表を出してください」といった感じです。

 井山さんのように七冠を持っていたら、棋聖戦は3カ月の日程を押さえ、そのほか本因坊戦3カ月、名人戦3カ月、他の棋戦は2カ月ですからどう考えても無理なんです。それで世界戦にあまり出られなかったという事情がありました。

――井山さんの世界戦活躍には高いハードルがあったのですね。

吉原 井山さんが20歳で史上最年少名人を獲得し七冠制覇したくらいの期間に世界戦にどんどん出られる環境があったら、いまの日本の地位がどうなっていたかわからなかったと思います。