囲碁AIの進化で棋士の出番はなくなるのか?

――碁が強くなるツールというと、近年はインターネットで強い人と対局することもできますし、囲碁AIも登場しています。

吉原 そうですね。私たちの時代は碁を打とうと思ったら、相手がいるところに行く必要がありました。そして、強くなるために強い人がいる碁会所を探したものです。そこで運良く強い人に出会えて打ってもらえたとしても、上手な方からすれば自分より明らかに弱い人と打つことは指導になります。ですから、その方のご厚意によるものですし、熱心に指導してくださるがゆえにちょっと怖い方もいたりして、それはそれで緊張しました。

 今はいくらでもインターネットで世界中の強い人と打てますし、わからないことがあればAIに聞くこともできます。

(撮影/宮崎訓幸)

――AIがますます進化すると、棋士の出番がなくなるという人もいますが。

吉原 そうなるかもしれませんが、やはり人間に教わったほうがいいですよね。AIはしゃべらないので、AIの手を理解するのにはそれなりの棋力や受け取り手の咀嚼力が必要なのに対し、人間は適切な言葉をかけて導いたりもできます。

 また、人間は好きな打ち方、パターンがありますが、AIがその人に合ったアドバイスをしてくれるかというと、まだそこまで優れてはいません。たとえば私もそうなんですが、「攻め」が好きな棋風でもAIは形勢判断が優れているので、バランスのいい手しか教えてくれません。だからいくらいい手を教えてくれたとしても私の感覚では勝てる気がしませんし、そのあと打ち継いでいけないのです。

 その点、私は師匠(加藤正夫名誉王座)も攻めの棋風だったので、師匠に育ててもらえたことがありがたかったですね。私に合うアドバイスをしてくださるので、素直に頭に入ってくるし、その通りに打つと本当に勝てるようになるのです。

――“AIソムリエ”と呼ばれる関航太郞天元やAIを駆使していることで有名な上野愛咲美女流名人らプロは、強いからこそAIを使いこなしているのですね。

吉原 そうです。トッププロはAIの打つ手を咀嚼する能力がありますし、たくさんの時間をかけてAIに力を注ぎ込んだ結果、ますます強くなっているということです。