日本囲碁界の悲願「世界一」は実現するか

――AIの活用にかかわらず、棋士のレベルは確実に上がっていると感じます。

吉原 これまでタイトルを60も獲ったレジェンド棋士の小林光一先生(名誉棋聖・名誉名人・名誉碁聖)がテレビ棋戦の解説で「棋士のレベルが全員、上がっている」とおっしゃっていました。光一先生にお話しいただくと、とても説得力があります。

――日本囲碁界の悲願でもある「世界一」も夢ではないですね。

吉原 そう願っていますが、他の国もどんどん強くなっていますからね。韓国の申眞ソさんなどは、それこそ頭の中がAIになっているんじゃないかっていうほど強い(笑い)。ですから今の若い棋士は結局AIの多くを身につけていくしかないんですよね。

──申眞ソさんの打つ手はAIの一致率が非常に高く、「“申”工知能」と呼ばれているほどです。そうなると、七冠を2度獲得した井山裕太本因坊のように、AIを取り入れつつも、自分の棋風、個性をどう出していくかを考えている棋士には難しい局面ですよね。

吉原 井山さんのように強いながらも個性が出る碁は、見ている側としても面白いですし、何よりかっこいいですよね。

 昔の先生たちは、一人一人ものすごい特徴がありました。たとえば武宮正樹九段は“宇宙流”と呼ばれていましたし、私の師匠の加藤先生も“殺し屋”という異名がついていました。そうやって名前がつけられるくらい特徴を持っている先生がたくさんいて、それがまた碁の魅力だったんです。ファンのみなさんも「自分は宇宙流で行く」「美学(大竹英雄名誉碁聖の特徴)で行く」とか真似しながら碁を打つ。そういう面白さがありました。