(英エコノミスト誌 2023年4月29日号)

民主主義国と中国の葛藤は果たして「文明」の衝突なのか

いかなる「文明の衝突」も米国のせいにする習近平

 今から30年前、ソビエト連邦が崩壊した後、米国の学者サミュエル・ハンチントンがその後の世界の変化について殺伐とした見解を披露した。

 かつての東西間の冷戦に「文明の衝突」なるものが取って代わると論じた。

 そして先日、中国と米国の対立が激しさを増すなかで、習近平国家主席がこれとは違う見解を打ち出した。

 異なる文明は共存できると説いたのだ。

 陳腐な楽観論に聞こえるかもしれないが、裏側に隠されたメッセージはそれほど楽観的ではない。

 西側は価値観の売り込みをやめよ、さもないとハンチントンの予言が当たることになるぞ、というのがそれだ。

中国が称える「習ビライゼーション」

 習氏が3月15日に「グローバル文明イニシアティブ(GCI)」を打ち出してから、中国の国営メディアはこれにおもねるコンテンツであふれている。

 ナショナリストのタブロイド「環球時報」の英語版は、習氏の考えに「シービライゼーション(Xivilisation)」なるあだ名をつけ、「この上なく重要で」「中国の知恵が詰まっている」と持ち上げた。

 中国のある外交官は香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストへの寄稿でハンチントンに言及した。

「『文明の衝突』という古くさい説が再び持ち出されている時期だけに、中国が文明の平等を強調することが、平和な世界のためにますます必要になっている」

 言い換えれば、西側は中国の共産主義と共存することを学ぶべきだ。この共産主義は西洋の理論であるマルクス主義をベースにしているかもしれないが、中国古来の文化の果実でもある、ということだ。