(英エコノミスト誌 2023年4月29日号)
スウェーデン製「グリペン」と米国製「F-16」が“空中戦”を繰り広げている。
筆者は仕事で飛行機を利用することが多い。
だが、スウェーデンのバルト海沿岸に点在する別荘の屋根をかすめるような低空で飛び、音速の壁を破り、ジェット戦闘機「グリペン」の操縦桿を握ってロール(横転)やループ(宙返り)を経験することはめったにない。
コックピットには、パイロットの隣――賢明にも筆者の手が届かないところ――に、このスウェーデン製の飛行機の性能を限界まで引き出せるようにする小さなトグルスイッチがついている。
スイッチは「平和」に設定されている。
指一本でレバーを倒すと「戦争」モードになる。そう思うと、とりわけ心が揺さぶられる。
空で優位に立つロシア軍
先日流出した米国政府の機密文書によれば、ロシアによる侵攻が昨年始まってから、ウクライナ空軍はジェット戦闘機を60機失った。
侵攻前より40%減ったことになる。今では80機ほどしか残っていない。
それに対し、ロシアはほぼ500機をウクライナ戦争に振り向けている。
それらは高性能なレーダーや射程の長いミサイルなどを装備しており、ウクライナの戦闘機をおおむね上回っている。
良い知らせは、ロシアがこの優位性を制空権確保に活用できていないことだ。
ウクライナの防空能力の一掃に失敗したため、ロシアの航空機はかなり離れたところからミサイルを撃ったり爆弾を投下したりせざるを得ず、望ましい結果を上げられないことが多い。
悪い知らせは、空における両国の戦力均衡が揺らいでいるように見えることだ。