カギは、現役時代からの鉄道への「愛着」

――そもそも、廃線の活用事例を調査しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。

桑本氏:今回のリサーチ前に実施した、移住創業に関する調査がきっかけでした。

 地方における移住創業の事例を取材するなかで、複数の地域でうまく活用されていたのが廃校です。リノベーションして交流の場にしたり、町おこしの拠点にしたり。

 人口減による廃校が地域のシンボルの一つとなりうるのであれば、廃線もまたそうなのではないかと考え、派生的に調査のテーマとしたのです。

 移住創業に関する調査は『移住創業と地域のこれから』(同友館、2022年、桑本香梨・青木遥著)という本にまとめました。興味深かったのは、移住者受け入れの意識に関するアンケートです。

 調査に答えた地域住民のうち、移住創業者を「歓迎する」「どちらかといえば歓迎する」と答えた人は86.8%に上りました。過疎地住民に限れば、この割合は91.8%にまで高まります。

 地域経済の衰退を目の当たりにし、危機感を抱いている様子が見てとれます。

 これに対し、こうした移住創業者と「積極的にかかわりたい」「どちらかといえばかかわりたい」と答えた人の割合は54.9%にとどまりました。

日本政策金融公庫総合研究所の桑本香梨・主席研究員(日本政策金融公庫総合研究所提供)

 移住創業者はウェルカムだけど、積極的にかかわりたいかと聞くと、一歩引いてしまう。このギャップはどこから生まれてくるのか。

 そこを分析していくと、積極的にかかわりたいと答える人には一つの特徴がありました。多くの人が、地元への愛着が「ある」と答えていたのです。

 廃線活用の調査を経て、鉄道についてもこれは同じではないかと感じています。現役時代を含め、どれだけその鉄道が自分たち地域のものだ、という意識があるか。その鉄道が、どれだけ愛されているか。

 観念的ではありますが、廃線後の活用に向けた活動の輪が広がっていくか否かにおいて、重要なポイントだと言えます。