無党派の非営利団体である米フリーダムハウスによれば、この「キツネ狩り」作戦には、国家公安部を筆頭に、国家安全部や人民解放軍が深く関与している。それが国外でも広く行われ、汚職に関与していると見られる中国人を他国で捕まえて「自発的に」帰国させ、罪を償わせてきた。同時に、国外にいる反体制派の中国人に対して監視や脅迫を行い、時にはその対象者が忽然と姿を消すケースも起きてきた。
反体制派に監視の目
海外でそうした活動を担っていたのが、中国が勝手に設置した警察の出先機関だ。それが今回、アメリカで中国人2人が逮捕される結果となった。ただニューヨークでは、同様の罪で中国人が逮捕されたのは今回が初めてではない。2020年から2022年の間で、少なくとも20人以上の中国人が起訴されている。
例えば、2022年10月に中国共産党中央規律検査委員会の支部から指示を受けた中国人がニューヨークのホテルを拠点に在米中国人を監視し、強制帰国させようとした疑いで逮捕されている。また別のケースでは、在日中国人の情報を集めたり、中国工作員に対する調査の証拠品を破壊したりするよう、米国国土安全保障省の職員らに対し多額の謝礼を支払っていた事件も摘発されている。
2022年5月には、中国のスパイ組織である国家安全部(MSS)の工作員4人がニューヨークで逮捕されたのだが、逮捕の理由は、中国からの亡命者や不満分子、反体制派らの世話役として有名だった在米中国人活動家を協力者にして、反体制派の中国人の情報を受け取っていたからだった。とんでもない話である。
加えて、大学関係者や元捜査官、中国人留学生なども協力者にして情報収集などを行なっていたケースもあった。こうした例は枚挙にいとまがない。
FBIのクリストファー・レイ長官は2020年に、中国政府による国外での活動は、反汚職のためなどではなく、反体制派を取り締まる目的であると断言している。その上で、「例えば、キツネ狩りでターゲットとされた中国人の所在がつかめない時は、中国政府はアメリカに暮らす家族に使者を送り、『すぐに中国に帰国するか、自殺するか、どちらかを選べ』という選択肢を伝えている」と主張する。
確かに、彼らの手口はマフィアさながらだ。中国国内にいる家族や身内を「人質」にして、在米中国人を脅迫したり、嫌がらせを行ったりして、強制帰国させる。中国に残る身内には、要職などからの追放や住居の破壊、子どもが学校に通えないようにしたり、公的機関の利用や社会保障を無効にしたりする。パスポートを使用できなくする、ホテルの予約をできなくする場合もあるという。