この制度では、制服組たる自衛官が長官に対して直接アドバイスすることはできない。あくまで背広組が長官と自衛官の間に入ることになる。これにより、長官は、軍事の専門家ではなく、法律や政策の専門家である官僚の言うことだけを聞いて文民統制を行うことになる。

 こうした「文官統制」を裏付けるように、『防衛白書』では長らく「事務次官が長官を助け、事務を監督することとされているほか、基本的方針の策定について長官を補佐する防衛参事官が置かれている」と記述されてきた。

 しかし、これでは自衛隊はちゃんと機能しない恐れがある。こうした制服組の問題意識は、自民党で防衛問題を専門にする“国防族”の石破茂氏や中谷元氏にも共有され、次第に制度は改められていく。

『防衛白書』の「文官統制」を認めるかのような記述は、2003年度版で削除された。防衛参事官制度は2009年8月に撤廃された。2015年3月6日には防衛省設置法第12条の改正案が成立し、背広組が政策的な見地から、制服組は軍事的な見地から対等の立場で防衛大臣を補佐することを明確にした。法律の上では制服組と背広組が対等であることが明確になったのだ。

 だが、いくら法律を変えても、「文官統制」のDNAは防衛省・自衛隊に深く刻み込まれている。

防衛省に告ぐ 元自衛隊現場トップが明かす防衛行政の失態』(香田 洋二著、中公新書クラレ)