来日して岸田首相と会談したインド外相と国防相(2022年9月9日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(数多 久遠:小説家・軍事評論家、元幹部自衛官)

 前回(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/73405)に続き、2022年12月16日に閣議決定された「防衛3文書」(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)についてレビューを行っていきます。

インド太平洋と「FOIP」を重視する戦略の意図

 前回、防衛3文書の特徴の1つとして挙げた安倍安保路線の継承は、3文書に頻出する「インド太平洋地域」という言葉に端的に表れています。

 インド太平洋地域という言葉は、2013年制定の国家安全保障戦略において「アジア太平洋地域」として使われていたものが、今回の改定で置き換えられたものです。国家安全保障戦略には21カ所、国家防衛戦略には14カ所も登場します。当然、ここには明確な意図があると見なければなりません。

 また、これに関連する用語として「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)も3文書に頻出します。国家安全保障戦略に5カ所、国家防衛戦略に3カ所です(参考:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page25_001766.html

 FOIPは、自由(リベラル)という価値を重視したもので、「この地域において、法の支配、航行の自由、自由貿易等の普及・定着、経済的繁栄の追求、平和と安定の確保を図る」という方針です。

 歴史的には、第1次安倍政権の麻生外相(当時)が提唱した「自由と繁栄の弧」という価値観外交の流れを汲むものと言え、FOIPという形に結実したのは第2次安倍政権時代です。自由と繁栄の弧は、ウクライナやバルト3国あたりまでを含め、中国・ロシアをまとめて包囲する概念でしたが、第2次安倍政権がロシアとの外交交渉を目指したためか、地理的なロシア包囲を避け、中国に集中する形になったのがFOIPとみることもできます。

 今回の3文書は、2021年末に改定加速が打ち出され、ほぼ1年、つまりロシアのウクライナ侵攻の最中に検討されてきました。岸田政権としては、サハリンのガスの確保などを配慮したのか、ウクライナも含めた自由と繁栄の弧ではなく、ロシアに対して必ずしも強硬ではないFOIPが採用・継承されたものと思われます。

 ただし一方で、3文書の改訂後ほどなくして、ウクライナを含め、他国に武器供与すべく法改正する方針が報道されており、ちぐはぐな印象もぬぐえません。今年(2023年)は、日本がG7の議長国であり広島でサミットが行われる予定です。岸田首相としては、ウクライナを支援するG7の結束を示すために、G7諸国の目を気にして動いていると思われます。