ネット選挙元年の2013年、自民党が発表したスマホゲーム「あべぴょん」。ぴょんぴょん跳ねる「あべちゃん」を操り、空のかなたを目指すゲームだ(写真:ロイター/アフロ)

 ネット選挙が解禁され、今年で10年になる。当時、ある政党は「あべぴょん」なるスマホゲームを作り、またある政党は「暴走老人 憲法にほえろ」と題した会員向けメルマガを発行した。若者の支持を得ようと各党がこぞった時代に比べれば、政治家のネット発信はすっかり定着してきた感がある。

 そんな黎明期からの10年間、各種選挙で自民党陣営に入り、ネット戦略を担ってきた黒子がいる。現・板橋区議会議長の坂本東生(さかもと・あずまお)氏だ。ネット発信の裏側では何が起きているのか。自民党候補者たちは、どんな戦略で有権者にアプローチしようとしているのか。統一地方選を前に、坂本氏に聞いた。(聞き手:篠原匡、河合達郎)

「ガースーです!」はアリかナシか

──国政・地方選を問わず、この10年にわたって自民党候補者のネット・SNS戦略を裏方としてサポートしてきました。この中で重視してきたことは何ですか。

坂本東生氏(以下、坂本氏):発信の軸はあくまで政治であるべきだ、ということです。当然、その候補者が「何を訴えているのか」ということを一番に伝えなければなりません。

 菅(義偉前首相)さんの総裁選を手伝ったとき、支援チームの一部は執拗に「ガースーです!」とやらせようとしていました。私は「絶対にやめろ」と主張しました。菅さんの政治に対する向き合い方、築き上げてきたその矜持を失わせるものだからです。

 逆に、「伝えたい」という思いばかりが先行して、文章だらけという発信も「政治家あるある」だと思います。一方的に言うだけでは「伝えたい」が伝わりません。

 広報担当者の一番の仕事は、候補者の「伝えたい」が伝わるようにトランスレイトすることだと言えます。

──その上で気を付けていたこと、信念は何でしたか。

坂本氏:私のネットチームで絶対のルールとしていたことがあります。

 それは「食欲・睡眠欲・性欲」の三大欲求に関する投稿はしない、ということです。