国連人口局は、中国、台湾ともに今後TFRが0.8程度で推移するシナリオを低位推計として用意している。このシナリオにおいて2050年の中国の人口は12億2100万人であり、それほど減らないが、20代人口は4227万人にまで減少する。台湾の人口も2086万人までしか減少しないが、20代男性の人口は79万人になってしまう。これは1990年の38%に過ぎない。

 台湾と中国では、時間とともに兵役に適した20代の人口が急減する。それを受けて、両国の世論は大きく変化する可能性がある。若者が減り、介護の問題や医療費の増大に苦しむ社会が、政治問題の解決のために戦争を選ぶとは考えにくい。

 特に民主主義を採用している台湾では、世論が国の進路に大きな影響を与える。無駄に若者の命を失うくらいなら、多少妥協しても中国のメンツを立てて、対立を平和裡に納めたいと思う勢力が台頭する可能性がある。

 ただしその一方で老人が増えることによって世論が硬化する可能性も考えておかなければならない。老人は一般に頑迷であり、かつ自身が戦争に行かなくてもよいので、無責任に強硬論を唱える可能性がある。人類は、老人が人口の過半を占める社会を経験していない。そのため、高齢化時代に世論がどう転ぶかを、過去の経験から予測することはできない。

 いずれにしろ、東アジアにおける急速な少子高齢化の進行は、今後の政治情勢を大きく変えてしまう可能性があるだろう。