そこで浮上したのが、中国から水資源を供給してもらうという計画だった。そして実際に福建省泉州市側のダムから、約16キロの距離を海底パイプラインでつなぎ、2018年から金門東岸の田埔ダムへ水が供給されはじめていた。

中国大陸の泉州からパイプラインで水を引いている ©広橋賢蔵

 田埔ダムに行ってみると「両岸共飲一江水」の石碑を見つけた。「両岸で同じ川の水を飲む(間柄になった)」とのスローガンは、金門島に住む人々が中国大陸へ抱く親近感を象徴しているように思われた。石碑の近くには、海底パイプラインの一部が誇らしげに飾られている。

「両岸共飲一江水」と書かれた石碑 ©広橋賢蔵

 水が引けるなら、電気や天然ガスを引くことも可能なはずだ。台湾本島から約200キロ、その距離は飛行機ならばひと飛びでも、本島と一体での社会インフラ維持には壁となる。この島に暮らす人々は、中国側がエネルギー資源を提供してくれるなら喜んで購入するかもしれない。

金門大橋から廈門のビル群を仰ぐ

 金門島観光の見どころのひとつに、対岸の海岸線を仰ぐ、というものがある。島の東側からは遠目に泉州が見えるし、やはり台湾領の小金門島(烈嶼島)という西隣の小島にいけば、眼前に厦門のビル群を望むことができる。金門島(大金門島とも呼ばれる)から小金門島へは、かつては小船で渡っていたが、2022年10月30日には新たに橋が開通した。人口わずか1万数千人の小金門の島民のため、というには、正直に言って立派すぎる大橋だった。

橋の上から廈門の街並みが見える ©広橋賢蔵

 全長5.4キロの通行無料の橋を、大金門島側から渡ってみると、中間あたりで、対岸にくっきりと廈門貿易センターを含む高層ビル群が現れた。牧歌的な此岸に比べ、急成長する彼岸との経済的格差に圧倒される。橋の完成によって、廈門までの距離は海路でわずか8キロにまで短縮された。

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