蔡英文総統(写真:ロイター/アフロ)

 日本語で「腐っても鯛」ということわざがあるが、中国語にも似た言い回しで、「痩せ死んだようなラクダでも馬よりは大きい」(痩死的駱駝比馬大)という言葉がある。今回、台湾政界で起こった「重要人事」を見るに、この比喩が思い浮かんだ。

 すなわち、ラクダとは蔡英文総統、馬とは頼清徳副総統(民進党主席)である。台北の「宮廷」で、いったい何が起こっているのか?

記者たちが噂する蔡英文総統と頼清徳副総統の不仲説

 まず、この2カ月前の台湾政界の「激震」を、おさらいしておこう。11月26日に行われた統一地方選挙で、蔡英文総統(当時は与党・民進党主席でもあった)率いる民進党は、台湾全22地域の首長選のうち、「5勝17敗」と大敗を喫した。これにより同日夜、「敗戦投手」と揶揄された蔡英文総統が記者会見を開き、「民進党主席を辞任する」と述べた。

 私はこの時、統一地方選挙の取材で台北を訪れていた。民進党本部で行われた蔡総統の辞任会見も、蔡総統とわずか数メートルの距離で、直接聞いた。

 この時、「現場」で一つ不可思議なことが起こった。蔡総統の会見が行われるということで、民進党本部10階の会見室に、約30人の記者たちが集まった。大半が地元台湾メディアの記者で、ざっと見たところでは、日本人記者は私ともう一人しかいなかった。

 ところがいつまで経っても、蔡英文総統が現れない。待ちぼうけを食らっている記者たちは、「蔡英文総統と頼清徳副総統がケンカをおっ始めているんだ」と噂し始めた。私がその根拠を訊ねると、「あの二人は仲が悪いから、きっとそうなんだろうということさ」と言われた。