包丁職人で60代の呉さんは、
「今も金門から廈門までは定期船でもたったの30分で着く。とても便利なので我々島民もよく利用している。あちらに不動産を買って持っている島民も多いし、ビジネスなどの交流は広範囲にわたっている。
30年前の廈門はこれほど発展していなかった。戦時体制下では、高い建物は標的になるから、両岸とも建てないようにしていたからね。2000年代に入ってから、あれよあれよという間にビルが林立した。かつては対岸にこちらの発展具合を見せつけるため、海岸線にハリボテのビルを作ったこともあったから、最初は“あちらも我々と同じことをやっているんだろう”くらいに思っていたよ」
そう笑いながら話していたが、すでにその差は比べるべくもない。この調子なら、いずれ小金門と廈門を繋げる橋も建設されるのではないかと思われた。
金門県選出議員の苛立ち
「廈門側からはいつ橋を作っても構わない、とメッセージを送ってきています。ただ現与党の民進党が渋っているので、遅々として進まない」
そう苛立ち混じりに話すのは、金門県選出の立法委員(国会議員に当たる)の陳玉珍女史(49)。国民党所属で、生まれも育ちも金門島。戦時体制だった1980年代には島民が組織する自衛団が残っていて、高校時代は女子でも軍事教練を受けたものだ、と語る。
「金門島民は一刻も早い小三通の再開を求めているのに、民進党はなかなか定期船の往来を開放してくれない。それなら、“代わりに台湾本島からもっと金門観光に来てくれ”と要求したいくらいです」
立法院の定数は113で、金門選挙区の枠は1議席。有権者の人数はデータ上では約12万人とされているものの、実態としては、住民票だけ島に置き台湾本島で暮らしている人が非常に多い。島に常時居住するのは5万人ほどと言われ、選挙のためだけに帰郷する人も少ないため、2万票も獲得すれば当選できるらしい。実際、2020年立法委員選挙における陳議員の得票数は2万1875票だ。ちなみに民進党は金門県ではまったく信用されておらず、候補者の擁立すらしていない。
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