クルーズ船ターミナルや免税ショッピングモールの開発が進む、海南島海口市の沿岸部(以下、特記以外は筆者撮影)

(加藤勇樹:香港企業Find Asia 企業コンサルタント)

 中国の南端、南シナ海にある海南(ハイナン)島をご存じでしょうか。日本ではあまり知られていないかもしれません。

 今回筆者は春節(旧正月)の長期休暇を利用し、1週間、海南島に滞在しました。そこで実感したのは、海南島が「以前のイメージとは大きく変わり始めている」ということでした。現地で目にし、話を聞いた「今の海南島」の姿をお伝えします。

温暖な気候で「中国のハワイ」とも

 海南島は、香港や広州から飛行機で1時間の距離にあり、1年を通して温暖な気候と、島全体に広がる椰子の木や熱帯雨林により、「中国のハワイ」とも称されています(次の写真)。

海南島南部の三亜市を中心に、美しい海岸線が続いている

 島の面積は約3万4000km2、人口は約1000万人(2020年調査)。面積と人口は日本の九州(約3万8000km2、約1300万人)に近い規模です。中国本土(広東省)との海峡は40km程度の幅しかありませんが、黎族をはじめとした30以上の少数民族が生活しており、漢民族以外の文化や風俗も色濃く残っている地域です。

 海南島は古代や中世には流刑地とされていました。漢詩の世界で名を遺した蘇軾も、かつては海南島に追放されており、「世界の果てに追い出された」と嘆いたほどです。海南島を離れて「華僑」として東南アジアへ旅立った住民も多く、東南アジアで広く食べられている海南チキンライスは、海南島からの移民が世界に広めた味とされています。

 中国の改革開放初期、経済の自由化が推進されて、深圳をはじめとする開発区が香港企業の経験やノウハウを活用して成功したのに対し、海南島は目立った外資企業の進出や製造業の発展などの機会を掴むことができませんでした。他の開発区よりも大都市から距離があったこと、労働人口のが少なかったことなどが要因かもしれません。

 2010年以降は、中国国内の中間富裕層の成長に伴い、観光関連産業を成長戦略に据え始めました。ただ、2018年以前は、中国国内のGDPランキング(地域合計)で31地域中28番目でした。豊かな観光資源に恵まれつつも、経済発展の観点からは後れを取っている状況でした。